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第25話
学園の門まで来ると、万里がスマホ片手に待っていた。
「遅い」
「ごめんごめん。ちょっと大雅君と秘密の話ししてた」
「ごめんね。圭太君にちょっと話聞いてた」
「なんだよ、仲良しかよ!」
三人で話をしていると、遠巻きにスゴイ視線を感じる。
あぁ、そうだ。ここは学校。
万里といると楽しかったり嬉しかったりする事が多くて、そういう場所に立っている事を忘れてしまいそうになる。
「行こうか…」
気を引き締めないといけないのに無意識に溜息が出た。
****
Fクラスのある教室はSや一般のとは別の棟になっていてここでも隔離されているという感じだ。
初めてFクラスに足を踏み入れる。
あ、、緊張してる。珍しい。
と思った瞬間、万里の腕が肩にのしっと乗せられた。
「キンチョーしてる?」
「…少しだけ」
今ので緊張は吹き飛んだ。逆に心拍数は上がった。
「キンチョーしてる時とか、人の体温感じると落ち着くらしーよ」
「っっ!!」
「昔、コレ教えてもらってさー本当に落ち着いたんだよなー」
「…そうなんだ?」
ドキドキした。あの時の事、万里も覚えてくれていると思ったら嬉しくて、アレは自分だよ、オレが万里に教えたんだよって伝えたくなる。
「ウン?落ち着いた?」
言ってしまおうか…と思った時に、
「お前らー早く教室入れよー」
と後ろから教師が声を掛けてきた。
「お、天野も一緒か!朝からお前の事見るなんて今日は雨かな?天城はコッチ。はい、席付けー!」
ガハハと豪快に笑うFクラスの担任は数学教師の清水 龍臣。風紀の顧問でもある。
F寮寮監の流星の兄だ。華奢でネコみたいな流星と全く逆で大柄で逞しい大型犬のような男だった。
桜咲学園の卒業生は何らかの形で学園に関わっている人が多い。
学園内で直接働いている流星や龍臣みたいな人もいれば外部から仕事として間接的に関わっている人も多い。
世間は狭い、の略図みたいな物だと大雅は常々思っていた。
「おお!天城効果だな。Fクラス始まって以来の全員出席。始業式とかイベントの時でも全員揃う事なんて無いのになあ。しかもちゃんと席に着いてるじゃねーか!」
ガハハとまた大笑いをして、
「お前らいつもこうだといいけどな!静かで気持ち悪いわっ。天城!一応挨拶してくれ」
片眉を上げて龍臣を横目で見る。
ふぅ と溜息をついて前に立ち教室を見渡した。
席には着いているが、片足を上げて座っていたり横向いていたりと行儀が良いとは言えない生徒達を見て、それでも黙って自分が話始めるのを待っている姿に微笑ましいとさえ思ってしまう。
万里の席は一番後ろの窓際、腕を組んでダルそうに座っている。目が合うとニヤリと笑っていた。圭太はその前の席で目が合うと手を振ってくれた。
「えーと、昨日も寮で挨拶しましたが、今日からFクラスでお世話になります。寮内でよりも学校での方が色々迷惑かけると思います。皆さん宜しくお願いします」
ピィーィ!と誰かが口笛を吹いてワーッと盛り上がってしまった。
「えーと、天城の席は天野の隣な」
「はい」
万里の隣の席に座ると
「コッチでも隣だな。よろしくー」
頬杖をついてニッコリ笑ってくれた。
するとその時
「ズルイッ!!」
急に誰かが大声で叫んでいる。クラス全体が騒ついた。
「万里の隣は不可侵条約で空席にしとく約束じゃん!皆で決めたじゃん!」
叫んでいるのは朝の子だった。
「ミチ、やめなよ」
周りの生徒達はミチと呼ばれた子を諫めた。
「でも、おかしくない?ウチら皆超我慢してるのにいきなり来た人が座れるなんて!元会長でもルールは守るべき!」
「ミチ、やめなって…」
「…ウルセー」
万里が機嫌悪そうにミチを睨んだ。
「お前らが勝手に決めたとかいうわけわかんねー事にヒトを巻き込むんじゃねーよ」
「…!!」
クラスがシン…として万里の声だけが響いていた。
「…っだって!万里っ!!ウチらだって万里の隣とか座りたい!って思ってるのに!」
「だからウルセーって聞こえない?ナニ?たかが席一つで勝手な事言ってんじゃねーよ。ヒトが黙ってりゃ調子に乗りやがって」
「っっ!!ひどっ」
「万里、落ち着け」
圭太が声を掛けて万里を宥めている。
「ケータお前も、こんなヤツに良いように振り回されてんじゃねーよ!ふざけんなよ」
「万里、落ち着いて。今それは関係ないよ?」
大雅が口を挟むべき事ではないかもしれないが、話が飛び火していきそうだったので、声を掛けた。
万里はハッとして圭太に謝る。
「……ゴメン」
「いいよ。それは別に気にしてないし」
圭太はニコッと笑って手をプラプラさせた。
「〜っっ!!なんだよっ!ボクだけが悪いっていうの!?」
ミチはキーッと両手を握って怒っている。仔犬がキャンキャン吠えているような怒り方で万里以外はうん、まただね。という生温い目で見ていた。
「おーい。お前ら俺を無視するなよ?」
龍臣が口を挟んで はい、おしまい。と言った。
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