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第10話
同じ頃、生き延びた一人の青年が各地を転々としながら仲間を集め、後に夜盗となって各村を襲っていた。
ただ他の夜盗とは違い、奪うのは若く美しい娘を一人、そして必要な食糧のみである。
火矢を飛ばし家々に押し入るが、奪うだけで人も殺さず、風のように颯爽と駆けていく。
(娘を奪った後、彼は手を出さず、昂ぶった彼の仲間が全員で娘に襲い掛かり、事が終われば人買いに渡すその一連の流れを考えると、作者は何とも言えない気持ちになるのだが・・六王記とはそういう世界に住む者達の物語であり、彼らの現状を考えると仕方ないような気もする)
そんな事を繰り返していたある日、族の仲間の一人である那紀 が『村の外れを歩いていたら、口に男のナニを突っ込まれたまま女に刺さってた奴を見つけた。何か知らんが面白い』という理由から一人の青年を連れてきたことがあった。
言葉も文字も知らぬその青年に那紀が名を与え、義兄弟として共に連れ歩くことを決めた。
その時の青年が、この宇那 である。
宇那は他の者とは明らかに異なる部分が目立っていた。
実年齢に比べ、見た目は幼い子供と変わらない。ふわふわニコニコと笑みを絶やすことなく、その場に大人しく座すだけだ。
その彼が襲撃を目にするや否や自ら弓を弾き、短刀を手に村人に襲い掛かると何度も刀を振り下ろし、自らも紅い鮮血を浴びながら、躯となった村人の皮を笑いながら剥がしていくその光景に最初は誰もが言葉を失った。
だが、その光景を前にして、頭領は宇那の首根っこを捕まえては、無理やり馬に乗せ逃げるようにその場を去る。気が付けば、その繰り返しであった。
彼らが去った後の光景は「野犬が人に群がり襲ったかのようだ」と称され、このままでは村どころか国が亡ぶと考えた王が重い腰を上げ、各国ともに兵を挙げ犯人探しに乗り出す始末。
当然、噂は瞬く間に広がり、彼らは数を減らしながら、やがて龍国へと辿り着いた。
この頃の龍国は、官吏であった高 寵姫 が少数を率い、反乱を起こした後に政権をもぎ取った直後でもあり、他国に比べると治安に関しては、けして安全とは言えなかった。
他国に比べ異形が数多く住む民の物珍しさに惹かれ、隣国から密売目的で龍国へ赴き、集落へ足を踏み入れ、民を持ち帰る。彼らの目的は戦利品市場に提供する商品であり、足跡を残さず奪えばその痕跡を討伐軍が辿ることは難しい。被害の件数は絶えず城に上がってくるものの、数が多すぎて犯人を見つけることが出来なかった。
そこで、高 寵姫自らが腰を上げ、数名の配下と共に国中を回ることにしたのである。
その際、同行したのが清涼 と絽玖 。スイフォン、そして将軍の楊 である。
数名であれば闇に紛れても感づかれることはないという理由から、彼らは集落へと足を運び、現場を目撃しては犯人を捕まえるという行動を繰り返していた。
そんな折、風の噂で野犬の事を知り、足を踏み入れた東の山中で宇那達を見つけたのである。
その際、頭領と寵姫が一騎打ちをして、寵姫が彼の片腕を跳ね飛ばし、『本来であれば縛につくのが普通だが、お前達全員を国に招き入れるから、協力しろ』と話を持ち掛けたのだ。
剣を鞘へと戻した彼は、腕を押さえ膝を折る頭領へ向けて
『私は二度同じことを言う気は無い。従うか。死ぬか。好きな方を選べ』
と告げ、彼らは寵姫に従い国で衣食住を保証されると同時に、武器の調達から製造、情報収集といった、ありとあらゆる作業をこなし現在に至っている。
その理由は、夜盗として周辺諸国を転々としていた彼らの持つ情報量とその交渉術である。
闇に顔が利く彼らを取り入れることで他国を侵略するのではなく、自国を守る武器とすることを考えた。
そして、寵姫の一声で彼らは商人になり他国へ赴き、様々な情報を仕入れるだけでなく、自国も自らの足で回り、その地に住まう民の声を身近に聞いて報告する。
自由に出歩くことの出来ない寵姫に代わり手足となって動き、情勢を知る。
これ以上の逸材はいないだろうとの考えから、彼は夜盗たちを招き入れることに決めたのである。
その際、副官を務める圭氏 がスイフォンと寵姫に
「まずは、彼を見て下さい。我々もどうすれば良いか・・」
と、後ろに立っていた宇那を前に出し、今までの行動を洗いざらい打ち明けたのだ。
その際、寵姫が膝を折り、宇那と同じ視線で二、三、言葉を交わすものの、宇那はただ口元を緩ませるだけで声は返って来ない。
どう見ても頭の上に疑問符がクルクルと飛び交っているようにも見えるその反応を見ながら、眉間に皺を寄せるとスイフォンを呼び、すぐに王都へ連れ帰る事を決めたのである。
その後、王宮へと戻った彼は試験に受かったばかりの奏幻 に宇那の診察を頼み、その場を離れる事にしたのだった。
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