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第11話
後日、奏幻 が寵姫 に『知的に何らかの異常があるように見受けられるが、これは生まれつきではなく、彼の養育歴に問題があるようだ』との判断を下した上で
「謁見の間にスイフォン。圭氏 。あと那紀 を呼んでほしい」
と告げ、それを了承した寵姫の言葉によって謁見の間へと集められた面々は、椅子の上に大人しく座ったままの宇那と再度、顔を合わせることになった。
その際、奏幻は何度も首を傾げていたものの
「この青年は、うーん。知的に何か問題があるというよりは、そうだね。何と言ったら分かりやすいのかな」
と、何度も言いかけては止めるという動作を繰り返していたが、やがて神妙な顔つきになると
「結論を言う前に、ちょっと教えてもらってもいいかな」
と、那紀に視線を向けた。
「はっ・・なっ・・なんすか?」
「うん。この子をどこで見つけて、その時は誰と一緒にいたの?人数は?その時、相手とこの子の様子はどうだった?それから、君たちと一緒に来ることになった時の話。日常の様子。言葉を話す事はあった?何でも良い。この子の事が知りたいんだ」
「・・あっ・・あれは・・」
奏幻の言葉に弾かれるように、那紀が一度口を開きかけたものの、そこで止まってしまい何度も圭氏と顔を見合わせていたのだが、ゆっくりと思い出すように話し始めた。
その話を聞き終えた後に、奏幻は誰に言うでもなくぽつりと
「誰かが、誰か・・誰がこの子の弓を引いたのか・・。誰だ?誰が・・」
と呟いたきり、何も話そうとはせず。当然、その声は寵姫の耳にも届いていたのだが、寵姫自身も何かを考える様に押し黙ったまま重い息を吐いていたので、その場にいた者は誰も彼らに声をかけようとはしなかった。
数分しか経っていないはずなのに、何時間も経過したように感じるのは、きっとこの暗く重い雰囲気のせいだと誰もが思うその沈黙を、いち早く破ったのは他の誰でもない。
龍国の王、寵姫である。
彼は、ただゆっくりと全員の顔を見ると、最後に奏幻に視線を向けた。
寵姫に気が付いた彼は、何も話すことなく、ただジッと寵姫の言葉を待っていた。
そうして互いに頷き合うと、宇那 を一年間、地下の医務室にて保護することを決めたのである。
一年という短い間で何が変わるとも思えない。もしかすると変わらないかもしれない。
けれど野放しにしては多方面に迷惑がかかる。そう考えた寵姫は宇那を自国で保護し見守ることに決めたのである。
そして現在。
ひそひそと話す二名の会話は相変わらずだ。
『マジかよ。半端ねえな』
『あんな逸材を側に置くのは六国間でも陛下くらいでしょうね』
『・・・あれだけは下賜 されたくねえわ』
『同感です』
『―・・来るぞ。鉄笛が』
『ええ。鉄の笛は貴方に任せましたよ。私はあの厄介な戟 をどうにかしなくては』
『面倒なのこっちに寄越そうとすんじゃねえよ』
『おや?心外ですね。あなたはそちらがお好みでしょう?』
そう話す二名の表情は明るく弾んでいるようにも見える。
『ハッ!違ぇねえ!』
「お前、やっぱ嫌いだわ」
「同感ですね。私もです」
二名の視線を直に受けながら構える宇那の表情は笑っていない。
彼はキュッと唇を固く閉じると、ふうと息を吐いた。
武器を手に構える彼を前にして、九十九 と絽玖 もまた同じように武器を構えている。
室内に緊張感が走り、目を見開いたまま伸びる宇那の腕を捉えながら、九十九が足を一歩踏み出すと、ジッと前を見た。
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