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第15話

―その頃。 会議を無事に終えた寵姫(ちょうき)は、桃花(とうか)の様子を見る為に奏幻(そうげん)の待つ部屋へと足を運んでいた。 予め、会場を隣の城にしておいて正解だった。 派手に壊されても文句を言われない場所を探していた彼にとって、古くなっていつ崩れるか分からない城ほどありがたいものはなく、この城を使ってはいかがかと官吏から提案されたとき、この機を逃してなるものかと二つ返事でその地へ乗り込んでいったのだ。 会場は隣の城で行い、古い城は派手に壊して貰うことを目的として皆を案内した。 顔を合わせればすぐに戦闘行為へと発展する二名でなければ、こうも上手くはいかなかっただろう。 あとは・・桃花だ。 数日前に書物の中に隠れるように挟まれた文には桃花の体調についての事が事細かに書かれていた。 その文に目を通した彼はすぐに奏幻を呼ぶと、今回の旅に同行させることを決めたのである。その際、忙しく動く自分に代わって絽玖(りょく)達の相手をしてもらう誰かが必要になってくる。 加減の必要のない、丈夫で力強く、それでいて屈しない者を・・。 さて、誰にしようかと考えていたところ、数日前に出来上がった革製品を見てもらおうと登城した宇那(うな)が目に留まった。 だから連れてきた。あの暴れ馬に勝てるとは思っていないが、良い時間稼ぎにはなるだろう。 そんな事を考えながら、寵姫は奏幻と桃花の待つ部屋へと向かうと、寝台にて静かに寝息を立てる桃花の前で薬包を取り出している奏幻に視線を向けた。 「様子はどうだ?」 「うん?ん。順調だよ。ちょっと悪阻が酷いみたいだけど、多分大丈夫だと思う」 「そうか」 「初めてだもんね」 「ああ。元気な子が産まれてくれると良いのだが」 「本当、鳩を飛ばしてくれたら北部に向かったのに。我慢するから」 「北部にも医師はいるだろう?だからじゃないのか?」 そうまで言いかけて、寵姫は何かを思い出したように奏幻を見た。 「お前は・・妊婦を診るのは初めてじゃないのか?」 「僕?初めてじゃないよ。王都を中心にあちこち診察に行っているからね。逆子も診たし出産にも立ち会ってる」 まぁ、僕は補助なんだけど。そう呟きながら桃花を見る奏幻の表情はいつもよりも何処か優しい気がして、寵姫はそんな彼を見るのは久しぶりだとも思いながら、側に置かれたままの椅子に腰を下ろすことにした。 「・・・知らなかった」 「だろうね」 奏幻の声にこくんと頷いていたが、やがて「う・・ん」と声を漏らす桃花に気づいて彼女を見た。 「・・・あ・・・」 うっすらと瞳を開ける桃花に、弾かれるように椅子から立ち上った寵姫の表情が、ぎこちなくではあるが柔らかなものへと変化していった。 「大丈夫か?」 「あ・・へい・・か・・」 「喋らなくていい。大丈夫だと奏幻から聞いた。梨皛ももうすぐ来るだろう」 「・・・すみ・・ま・・」 微笑みを浮かべながら伸ばす寵姫の指が、ゆっくりと桃花の髪を梳いていく。 遠慮がちに伸ばされたその指に安堵の表情を浮かべながら、桃花の瞼が重くなっていった。 「気にしなくていい。元気な子を産んでくれ」 「あ・・りが・・と・・」 「・・・・・・・・」 「寝てしまったか・・」 「うん。そっとしておいてあげないと」 「そうだな」 静かで、それでいて心地の良い時間を感じながら、寵姫は暫く桃花を眺めていたが、やがて何かに気づいたように静かに席を立った。

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