4 / 40
ゴミ、チープな味を恋しがる。
新しい生活は特に揉め事もなく平和に過ぎていく。
雇用契約は驚くほど普通だった。むしろ、普通の家政婦より楽だろう。
春太の仕事は主に三つしかない。
ひとつは、ルークの息子──テディを幼稚園に送り迎えすること。それも、専属のドライバーがいるため、テディと一緒に乗っていればいい。
ふたつめは、部屋の掃除だ。だが、ピカピカに磨きあげろとは言われず、汚れないていどに片付けをすればいいと言われた。
そして、みっつめは、週に一度ある血の提供だ。
だが、これも暫くは出番がないらしい。
なぜなら、ルークに臭いと言われたからだ。
『他の男の匂いが消えるまで必要ない』
春太の頬がひくりと痙攣したのは仕方の無いことだ。まさかそんなふうに、己の性を暴かれるとは思わなかった。御伽噺でも、ヴァンパイアは処女の生き血を好むとあるが、ルークもそうなのだろうか。
「そんな馬鹿な」
だったら春太を選ぶはずがない。
馬鹿らしい考えはさっさと捨てた。
用意された昼食を口にする。高級な味だ。そりゃあ、一食だけで数万かかるのだから、お高い味なのは正しい。
だが、どうにも満たされない。普通のご飯が恋しかった。
それに、本当に暇なのだ。
掃除なんてすぐ終わってしまう。そもそもこの家を汚す者がいないのだから当然だろう。
まだ五歳のテディさえ綺麗に片付ける。食べたものをシンクに運び、脱いだ制服はハンガーにかける。勉強道具だって、きちんとしまう。
春太の知る子供とは雲泥の差だった。
「ご飯作りたいな〜」
自分で呟いて気づいた。どうせ暇だし、作ってしまえばいいと。
念の為、秘書の右京に確認はとる。返事はすぐにきた。ご丁寧に、ルークやテディの好みや、アレルギーについての情報も添付されている。
なんとなしに読みながら、近くにスーパーがあるか確かめた。
検索すると春太が居候している、タワーマンションの近くに、高級スーパーがヒットした。お高い味になれている二人は、お高い食材でなければならないのだろうか?
「えー。めんどくさいなぁ」
普通のスーパーで買う普通の味が恋しいのだ。契約内容の禁止事項は他言無用のひとつだけだ。
春太は再び右京に返信する。お礼ともうひとつの確認。
そして、返ってきた返信を見て、春太の瞳が三日月になった。
ともだちにシェアしよう!