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ゴミ、チープな味を恋しがる。

   新しい生活は特に揉め事もなく平和に過ぎていく。  雇用契約は驚くほど普通だった。むしろ、普通の家政婦より楽だろう。  春太の仕事は主に三つしかない。  ひとつは、ルークの息子──テディを幼稚園に送り迎えすること。それも、専属のドライバーがいるため、テディと一緒に乗っていればいい。  ふたつめは、部屋の掃除だ。だが、ピカピカに磨きあげろとは言われず、汚れないていどに片付けをすればいいと言われた。  そして、みっつめは、週に一度ある血の提供だ。  だが、これも暫くは出番がないらしい。  なぜなら、ルークに臭いと言われたからだ。 『他の男の匂いが消えるまで必要ない』  春太の頬がひくりと痙攣したのは仕方の無いことだ。まさかそんなふうに、己の性を暴かれるとは思わなかった。御伽噺でも、ヴァンパイアは処女の生き血を好むとあるが、ルークもそうなのだろうか。 「そんな馬鹿な」  だったら春太を選ぶはずがない。  馬鹿らしい考えはさっさと捨てた。  用意された昼食を口にする。高級な味だ。そりゃあ、一食だけで数万かかるのだから、お高い味なのは正しい。  だが、どうにも満たされない。普通のご飯が恋しかった。  それに、本当に暇なのだ。  掃除なんてすぐ終わってしまう。そもそもこの家を汚す者がいないのだから当然だろう。  まだ五歳のテディさえ綺麗に片付ける。食べたものをシンクに運び、脱いだ制服はハンガーにかける。勉強道具だって、きちんとしまう。  春太の知る子供とは雲泥の差だった。 「ご飯作りたいな〜」  自分で呟いて気づいた。どうせ暇だし、作ってしまえばいいと。  念の為、秘書の右京に確認はとる。返事はすぐにきた。ご丁寧に、ルークやテディの好みや、アレルギーについての情報も添付されている。  なんとなしに読みながら、近くにスーパーがあるか確かめた。  検索すると春太が居候している、タワーマンションの近くに、高級スーパーがヒットした。お高い味になれている二人は、お高い食材でなければならないのだろうか? 「えー。めんどくさいなぁ」  普通のスーパーで買う普通の味が恋しいのだ。契約内容の禁止事項は他言無用のひとつだけだ。  春太は再び右京に返信する。お礼ともうひとつの確認。  そして、返ってきた返信を見て、春太の瞳が三日月になった。

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