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第2話
三人はリビングに移動する。それぞれが好きなところに腰掛けると、様々な話が飛び交った。
ルークは現在31歳、虎牙は27歳だという。春太は早生まれだ。今年の3月でようやく26歳になる。ルークとは5つ、虎牙とは1つ違いだ。
そして、虎牙はルークの従兄弟で、幼い頃から知っていると語った。
「こいつの相手は大変だろ? 純血は能力は高いかわりに感情がないからな〜」
酷い言い草だ。だが声音は優しい。
「でもよーく観察すると結構感情表現するから。呆れずに見てやってな」
やっぱり優しかった。
「……あ、じゃあテディも?」
「んあ? テディは俺と同じで、母親が吸血鬼のなり損ないだから純血じゃねーよ。俺もテディも偽物吸血鬼だ」
吸血鬼になり損ないというものがあるのかは、春太にとって疑問だが、ルークが何も言わない辺りそうなのだろう。
ルークは自ら話すことはないが、間違えは必ず指摘した。意外と細かいのだ。
「大変なんだ」
「そっ。ガチガチだから、俺たちのところ。ルークは特に純血だから色々とめんどくせぇ状況だったしな」
「……そっか」
ルークは親を衣食住を提供する他人だと言っていた。それだけでなんとなく察するが、虎牙の明け透けなものいいで、なおさら想像できる。
だらだらと話をしていても、ルークは小説を読んで話には参加しない。
どこまでも己を貫いている。
「ルークー。電話なってんぞ」
虎牙が机の上に置かれたスマホを放り投げる。ルークは見事にキャッチすると、内容を確認して立ち上がった。
そして、寝室に向かう途中で足を止める。
どうしたのかと思えば、こちらを振り返り春太を見つめた。
「なに?」
首を傾げると、虎牙が吹き出す。そして、大丈夫だから早く行けとあしらわれて、ルークは寝室へと向かった。
「さっきのなんなんだ」
ひとりごちると、目に涙を浮かべて虎牙が言う。
「俺に春太を味見されんじゃねーかって思ったんだろ」
虎牙が猫目をにんまり細めた。
「春太かわいーし。俺も結構好きな匂いだから、お手つきじゃねーなら連れて帰んだけどね」
悪戯なセリフに、春太の胸がときめく。
細身に見えるが、引き締まった体。虎牙に抱きしめられるところ思わず夢想してしまう。
「エロい顔してもダメだっての。横取りしたら俺がルークに半殺しにされっから」
何にも興味のないルークが、自分ごときで怒るとは思えない。例えるなら、腹が空いた状態で、好物のカレーを横取りされたようなものだろうか?
春太は珈琲を飲みながら、そう結論付けた。
そのタイミングで、テディを伴い右京がリビングにやってくる。
今日は右京がテディのお守りをしてくれていた。外から帰ってきたばかりのテディは、胸に交換日記を抱えている。
「……お返事書いた」
春太に少しだけはにかみながら、交換日記を手渡す。そして、虎牙に頭を下げると、すぐに自室に引っ込んでしまった。
「よう、待ってたぜー、右京」
「うるさいですね。貴方も懲りないな」
「俺の餌になれよ。絶対俺たち相性いいから」
「お断りです」
右京は眼鏡を押し上げて、冷淡に言い切る。
過去に一度だけ、ルークの餌探しに疲れて、自分が代わりになった事があったらしい。だが、その時に酷い目にあったと右京が話していた。
きっと、顔を顰めているのは、その時のことを思い返したからなのだろう。
「つまんねーの。いいじゃんケチ」
「黙れ」
「はー。今日も振られたわー」
慰めてと擦り寄る虎牙に、やはり胸がときめく。肌が触れ合いドキマギしていると、虎牙が交換日記に興味を示した。
「へー。あの二人がねぇ」
文字を追っていた猫目がすぅと細まる。なんとなく、部屋の温度が下がった気がした。
「……でもあんまし他人の家庭問題に首突っ込まねー方がいいんじゃね?」
「えっ」
「だって春太。いつかはこの家からいなくなるんだろ? 取り残されたあと、テディがしんどくねーかな」
指摘にどきりとした。確かに、春太はいつ居なくなるか分からない。その時のことまで考えずにいた自分が酷い悪者に思えた。
「いいことではありませんか。いつまでも停滞しているより、進む方がうんとよろしいかと。……それから貴方は、自身の過去を重ねているだけでしょ? 春太さんやテディ君は貴方の過去ではない」
「悪い」
右京の指摘に決まり悪く虎牙が謝る。春太も謝られたが、心は全く別のことを考えていた。
──自身の過去を重ねているだけでしょ?
右京の言葉は、虎牙だけじゃなく、春太の心も揺さぶった。
ひとつ屋根の下にいるのにすれ違う親子。血の繋がりがあっても他人より遠い。
春太はそんな二人に自分を投影していたのだろうか。だから、テディを見ようとしないルークに、あの日怒ったのだろうか。
その日芽生えた疑問は、なかなか消えてくれなかった。
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