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第2話

   あのあと、担任に事情を説明すると謝罪を受けた。  謝られることは何もないと思いつつも、そういうものなのだろうと受け取る。  餓鬼大将の名前はじゅんきというらしい。そして、苗字を聞いて察した。じゅんきも有名会社の子息だった。  金魚のふんみたいに、周りを囲まれていたじゅんきを思い返す。  小さくても誰かを蹴落とす戦いは、既に始まっているのだ。胸の中がモヤモヤした。  子供には子供の戦いがあって、それは成長するにつれて明確になる。小さな箱庭にはヒエラルキーが存在して、上手く順応できなければ底辺だ。  馬鹿みたいだと思えるのは、春太がもうあの小さな箱庭から飛び出しているから。 「はるちゃん」  寝かしつけていると、テディがとろんと瞳を瞬く。  声音は眠りに落ちかけているのか、ゆっくりでふわふわしていた。 「……はるちゃんがいたから、ぼく、いえたんだよ」  テディのお腹を撫でていた手が止まる。頭をあげると、濃い紫の瞳が嬉しそうに三日月になる。 「……ぼくが泣いたら、はるちゃんが抱きしめてくれるから」  ──だからね、はるちゃんが居てくれて、僕は勇気をだせたんだよ。ありがとう。  途切れ途切れに紡がれる言葉。伝え終わると、あっという間に眠りに落ちてしまう。  テディの健やかな寝息を聞きながら、春太は胸の痛みに苦笑した。 「……テディはすごいよ。俺なんかよりずっと」  起こさないように。壊してしまわないように。  春太は震える手で優しくテディを抱きしめた。

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