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第3話

   シャワーで全身を洗い流す。  中に出されたものを掻き出して、流れていく水と一緒に、不愉快な感情を無理に払った。  賢吾に開放された頃には、陽も沈み夜がきていた。おかげで病院は閉まっており、全ての苦労が水の泡になった気分だ。救急に行くか悩んだが、一晩しか薬は貰えないと諦める。  仕方なく市販の風邪薬を服用して春太は部屋に戻った。  テディとは朝に会ったきりだ。体調が悪いことに気づき、一人で大丈夫だと言われてしまったのだ。  それでも、迎えには行こうと思っていたのに。  時刻は既に23時過ぎ。テディの顔が見たくなる。  誰もいないリビングで、独りご飯を食べたのかと思うと、胸が引き攣るように痛む。 「やっぱり、顔みたいなぁ」  風邪をうつしたくないけど、扉からそっと見るだけなら大丈夫じゃないだろうか。なんて言い訳をして、テディの部屋に向かおうとした時。  リビングに隣接した自室から出て体を竦めた。  扉のすぐ目の前に、ルークが立っていたのだ。  それも、真っ赤な瞳を釣り上げて、見た事のない嫌悪感を現して怒っていた。 「よその雄の匂いがする。なぜだ?」 「えっ」  ルークの冷たい声と同時に腕を捕らわれて、床に放り投げられる。春太は強かに体を打ち、喘ぐように息を吐いた。  咳き込みながら体を起こした春太は、ルークを見て息をのむ。  ルークの髪が怒りに呼応するかのようにふわりと広がっていたのだ。  そして、真っ赤な瞳が獣のように縦に割れたとき。  周囲の物が爆発するかのように弾けた。けたたましい音が鳴り響き、硝子や破片が飛び散る。 「……ルークっ」  吸血鬼がどんな存在であるのか。憤怒の表情で睨めつける姿を見て理解する。  ルークは人間ではなく、人外なのだと。  人間がどんなに怒ったところで、感情だけで物を壊すことなどできない。だが、ルークは違う。感情は形となり周囲に影響を及ぼす。 「餌ごときが裏切るとはな」  くつり、と嘲笑を浮かべてルークが近づいてくる。硝子の破片が足を傷つけるのも厭わずに、真っ直ぐに春太の元へやってくる。 「私が言ったことを忘れたか?」 「ご、めん」 「謝罪などいらない。私は他人に奪われるのが何よりも嫌いだ。──お前には躾が必要なようだ」  春太が後ずさると、足首を掴まれて引っ張り戻された。何をされるのか分からず怯える。春太が身をすくめて目を閉じると服を破かれた。そして、呆然とする春太を押し倒して、無理矢理に足を開かされる。 「る、ルーク!」 「お前は私が拾った。私のものに印をつけるのは当然のことだ。違うか?」 「〜っ俺は、俺のものだ!」  賢吾になぶられて赤く腫れたふちを、ルークの綺麗な指がなぞる。  ひくりと肌を震わせる春太を見下ろして、ルークは目を細めた。 「淫売がふざけたことを」 「──ッ!」  ルークの言葉が胸に突き刺さる。今までの過去が蘇り、喉の奥がしめつけられた。  そう言われても仕方のない過去の自分が、頭の中で弾けて消える。 「戯れに自由にした私が間違っていた」  ルークは硬質な声音でそういうと、強ばる春太の体を貫いた。 「あぁっ!」  喉を晒して、春太の体が飛び上がる。言い知れぬ快楽の波が襲ってきて、春太は幼子のように首を振った。 「いやぁ……っ! な、にこれ、ぇ、っ、んんっ、あっあぁっ」  ルークのモノに貫かれただけで、どうしようもない絶頂感が襲いかかる。  春太の下肢はビュクビュクと吹き出す潮で濡れていた。 「や、めろ……っ」  頭の中が真っ白になる。気持ちが良くて、気分が高まる。だけどそれは、春太の心とは正反対だ。  偉そうで最低なやつだけど、でもどこか子供のように真っ白で、憎めないと思っていた。  人生で初めて拙い感情をぶつけたのも、意見を述べたのもルークだ。嫌そうな顔をしながら、それでも春太の話を聞いてくれていた。  例え興味が無いからだとしても、ルークの傍は息がしやすかったのだ。 「はな、せっ! おれは、こんなこと、したくないっ」  押さえつけられた腕を振り回す。がむしゃらに身を捩ると、ルークの片手が首を絞めた。 「喚くな、ゴミ」  春太の瞠目した瞳から光が消える。薄茶の瞳から涙が零れた。 「お前なんか、大っ嫌い」  春太は拳を握りしめると、ルークの顔を殴り付けた。  鈍い音がして、綺麗な顔に傷がつく。ルークの唇が切れて赤い血が滲んだ。 「お前は本当に、私を不愉快にさせるな」 「っああ!」  ぐちゅり、と中をかき混ぜられて、春太の体が震える。気持ちのいいところを、ゆっくりと嬲るように穿たれる。 「嫌いな私に抱かれて悦ぶ気持ちはどうだ?」 「っさい、あくだ」  春太が睨めつけてもルークは鼻で笑い一蹴した。そして、長大なそれを奥へと無理に押し進める。一度も開いたことの無い場所をこじ開けられた春太は、体を痙攣させて泣き叫んだ。 「だめぇ……っ、そこ、はいら、なぃ……っ」  ビクビクと足が跳ねる。ルークの性器は春太の結腸に届くと、容赦なく責め立てた。 「浅ましいな。お前の体は獣のように発情している」 「ひぅっ、ぁっ、〜〜っひ、ぁ」  絶頂をして脱力する前に、再び絶頂感に追い立てられる。終わりのない快楽に、春太の白い体が真っ赤に染る。  ルークは陰を残し浮き出た鎖骨に噛み付いた。自分のものだと名前を刻むように。 「おまえは、獣以下だ」  心を取り残して揺さぶられる姿は、本当にただの玩具になったようだ。  これまで過ごした数ヶ月の記憶が、まぶたの裏側で弾けては消えていく。心も一緒になくなっていくようで、春太は震える声を絞り出した。 「おまえたちみたいに、だれかを、押さえつけて、心を踏み躙るヤツらは、……みんな獣以下だっ」  体は燃えるように熱いのに、心だけはいつまでも冷たい。  あの日見た雪を思い返した。灰色の空から降ってくる冷たい塊。  肌に触れた瞬間、溶けてしまった冷たい雪のようであれ。心を殺して、息を潜めて、そして最後には溶けて消えてしまえばいい。  そうすれば、きっと全ての痛みから逃れられるから。  春太の意識はプツリと途切れた。

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