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第3話
二人は惜しむように限られた時間を一緒に過ごす。
食欲のないテディに、なんとか少しだけでも食事を取らせて、テレビを見ながら談笑する。
窓から夕焼けが差し込んできた頃、ルークが腕時計を見た。
「そろそろ次の発作が来る頃だ。部屋に戻った方がいい」
和やかな時間が再び冷える。けれど春太は、落ち込むテディに、また一緒に遊ぼうと約束をして送り出した。
何事もなく初めての面会を終えようとした時、思わぬ出来事が起きる。
部屋に戻る途中で、テディが足を止めた。
「テディ、寂しいのか? でも俺も隣の部屋に──」
春太は最後まで言葉を紡げなかった。
振り返ったテディが春太に飛びかかったのだ。
大きな瞳が禍々しい赤に染まり、小さな口から伸びた鋭い歯が、春太の首筋に突き刺さる。
「っぐ」
その刹那、体が戦慄き、嫌悪感と吐き気が込み上げた。それはテディに血を吸われるたびに沸き上がる。
春太は「血の相性」を思い出した。ルークとの時は恍惚とするほど気持ちがいい。それは相性がいいからだ。
だが、テディとは血の相性が悪いらしく、苦痛しか感じない。
じっとりと脂汗が背中を濡らした。
「待て。今引き離す」
冷静に対応するルークの手が、テディに到達しかけた時。春太は笑って、その手からテディを隠した。
「大丈夫。……落ち着くまで、ぅ、こうしてるよ」
ルークが瞠目した。そして、怒っているような表情を浮かべる。
「馬鹿なのか? 体に拒絶反応が出ているだろ。そのままにしていると、辛いのはお前だろ」
「それでも、いいから」
だって、テディが泣いている。
春太の血を啜りながら、泣いているのだ。
「大丈夫、大丈夫だよ。テディ? 怯えなくていいからな。誰だって初めての時は色んな経験するんだから」
震える手でテディの頭を撫でる。
空いた右手は安心させるために、しっかりと背中を抱き寄せた。
それからすぐに、テディが嗚咽を零して顔を離す。
ぐっしょりと涙に濡れた顔で、何度も「ごめんなさい」と呟くと、糸の切れた人形のように意識を失った。
「……一度に大量の血を飲んだせいで発熱しているな」
ルークが倒れたテディをベッドに運びながら、ちくりと春太を責める。
一方春太は強がった癖に、未だに立つこともままならない。
苦笑する元気もなければ、体を起こしているのも怠いほど、疲労を感じていた。
「お前は本当になんなんだ?」
ルークは足早に戻ってくると、春太を抱き上げて見下ろしてくる。
見た目の割に逞しい腕の中で、ぐったりと凭れる春太を、綺麗な紫が観察していた。
「なぜ、お前は他人である私たちに、それほどまで干渉する」
戸惑いを乗せた問いかけに春太は答えた。
「好きだからだよ」
無理をしてでも、我慢をしてでも、心を守ってあげたい。
それができるのは、結局のところ好きという感情に動かされているからだ。
「……お前と居ると私は分からなくなる」
ルークの独り言は、迷子の子供のように不安定だった。
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