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《10》冷たい部屋の中
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冷たい部屋の中で少年は父親に服を脱ぐように命じられた。
部屋の中には、いくつもの鞭がぶら下がっている。
使い方を少年は知っていた。
父親が感じる罪の重さによって、使われる鞭は違う。
一度も使われたことのない鞭であっても、少年は鞭による痛みを知っていた。
皮膚が裂け、背中を血に濡らし、少年の痛みが長く続くものは、父親の機嫌を良くする。
初めてこの部屋に連れてこられてから、少年はそれらの未来が見えていた。
そして、未来は変えられると知った。
どんな言葉も父親は求めていない。
父親は少年を罰することしか考えていない。
生まれてきたことが罪だと父親は言う。
少年のことを人殺しだと父親は責めたてた。
鞭に打たれながら謝罪を繰り返す。
自分は生きていてはいけないのだと家を出ることを決意するが、そう簡単にできるものではない。
少年は公爵夫人専用として雇われている医者に師事した。
最初は鞭打ちの傷を治すために薬草を無断で摘み取ろうとして、見咎められた。
だが、そのうち正しい知識が必要だと薬草について教えてくれるようになった。
薬草の知識は公爵家の外でも通用する武器になる。
少年は生まれて初めて居場所が出来た気持ちになった。
父親に罵られ、鞭を打たれ、自分と違って大切にされている腹違いの弟を見せつけられる。
生まれてこなければ良かったと思ったことは一度や二度ではない。
けれど、厳しくも優しい医者のおかげで少年は前を向いた。
医者との勉強会が側室に知られ、弟に羨ましがられた。
父親には二度と医者を煩わせないと誓わせられ、温室に近づかないように命令された。
もちろん、守るわけもなく医者の温室に少年は向かった。
少年の居場所は、そこしかなかった。
最近、目が悪くなってきた医者には自分という助手が必要だと考えていた。
少年を出迎えたのは、物言わぬ冷たい姿の医者だった。
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