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【13】何様のつもり

いつもは口にしないデザートまで完食する俺に「腹が出ているな。もう、産む気か」と冗談なのか、本気なのか分からないことを言うアリリオさま。 待たせすぎだと怒り狂って今回の話がナシになるという展開は、さすがになかった。 一番楽で、禍根が残らない最善策だ。 ベラドンナは不機嫌そうな顔をアリリオさまを見た瞬間に引っ込めて立ち上がった。 これは、分かりやすいが逆にいい。 待たされて不機嫌になるのは当然だ。 それが、自分の顔を見た瞬間に笑顔を浮かべるのだから胸が熱くなったりするのではないだろうか。 アリリオさまを見るとなぜか目が合った。 どうやら、俺が観察されていたらしい。 「こんにちは、リオさま。わたくし、ビジョーア伯爵の長女、ベラドンナですわ。……あら、そちらの方は?」 俺に視線を向けて小首をかしげる魔性の女。 少しのアホっぽさが勝気な瞳を相殺している。 仕草一つをとっても、かわいらしさが詰まっている、そんな彼女との負けられない戦いをかわいさゼロな俺がしなければならない。 俺とアリリオさまの後ろからついてきていた執事が割って入ろうとするが「ピネラ」と名前を呼んで制止してくれた。 これは俺が口を開いて良いということだ。 アリリオさまは彼女に返事をする気がない。 「きみは何様のつもりなのかな?」 胃の痛みをおさえるためというわけでもないが、息を吐き出す。 執事が「はへ?」と奇妙な声を出すのが聞こえた。 アリリオさまが、どんな顔をしているかは分からない。 「きみがどこの誰であるのか、こちらはもちろん分かっている。呼び出したのは我々なのだからね。ああ、自己紹介をするなという意味じゃないよ。どうして、招待客であるきみがこの家の当主のように振る舞っているんだい」 あいさつをするなら普通は当主からだ。 親しくもない客が当主に自己紹介をしろというのは、おかしい。 初対面にもかかわらず愛称で呼んでいるのもどうかしている。 実は初対面ではないのだろうか。 「当主と肩を並べて歩いているのだから、俺が誰であるのか、考えずとも分かるだろう。きみは自分が教養が足りないと証明するために口を開いたのかな」 こういった嫌味は俺の妹が大得意だ。だが、俺は不得意だ。 今は不得意でもやらなければならない。 笑って、和やかな雰囲気で側室許可など与えたりはしない。 アリリオさまに嫌われたとしても、ベラドンナのことを思えば性格が悪くても抱き心地が良ければ許されるはずだ。 未来の俺のスケベテクニックに賭けて、今は勝負に出るしかない。 読まずにいたエビータの知恵袋、口づけ特集に目を通そう。 口づけの仕方が絵つきで解説されていて、分かりやすいが恥ずかしい本だ。 「なんですって……!?」 激高して俺を叩いてくるかと思ったが、アリリオさまの手前なんとか堪えたようだ。 手が震えている。 アリリオさまに抱き着くように駆け出した。 当然のようにアリリオさまは、俺ごと横にズレた。 ベラドンナはギリギリで倒れず、執事に支えられた。 アリリオさまに避けられると思わなかったのか、ショックを受けた顔のベラドンナを無視して俺は椅子に座る。 手を差し伸べて心配したりする場面だが、情けはかけられない。 アリリオさまもベラドンナに興味がないのか、所定の場所に着席した。いつもの無表情よりも楽しげな雰囲気を出している。 俺の行動を責めている気配がない。

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