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【14】愛称

「自己紹介がまだだったな。私はカーヴルグス家当主、カーヴルグス・ヴィクト・アリリオだ」 ヴィクトというのは魔獣討伐をする英雄の称号だ。 公爵家が英雄であることは珍しい。 公爵家が力を持ちすぎると王家とのバランスが崩れてしまう。 国民の一部には魔術討伐という危険な任務をしてくれているアリリオさまに王になって欲しいという声もある。 アリリオさまが王になったら魔獣を討伐する人間が居なくなると分かっていない。 現場の人間と指示を出す人間は別でなければならない。 魔獣討伐で命を落とす人間は数えきれない。 俺のことをどんな風に説明するのかとアリリオさまの口元のホクロを見つめる。 「コレは知っての通りだ。から、そのつもりでいろ。みな、奥様と呼んでいるから、そこまでは妥協しよう」 俺が奥様と呼ばれているのが嫌だったらしい。 俺のことをなんだと思っていたのだろう。 孕み袋だろうか。 それにしても俺の名前を出さなかったのは、もしかしなくても名前を知らないから呼べなかったのではないだろうか。 愛称で呼ばれるとなおさら誰の話をされているか分からなくなると言っている気がする。 息を吐くようにアリリオさまに侮辱されているが、そこは割り切るしかない。 自分よりも上の立場が居ない世界で暮らしている人間だから、無礼であっても仕方がない。諦めるしかない。 「それで、ビジョーア嬢。早速だけど、自分の置かれている状況は理解しているのかな」 「置かれている状況?」 ツンと尖った声で聞き返す彼女に溜め息を返す。 彼女は転んだ状態を執事に支えられたままだ。 アリリオさまの声に耳を傾けるために体勢を維持していたとしても、アホっぽさはぬぐえない。 羞恥に顔を赤く染めながら自分の席に座り直した。 ひとくち、お茶を飲んだら顔色が落ち着いていたので貴族令嬢として訓練されている。 「わたくし、リオさまから妻にと、求められましたの」 挑発するように俺を見るベラドンナが次の瞬間に悲鳴を上げた。 アリリオさまの雰囲気が冷たく鋭くなっている。 とてもじゃないがアリリオさまのほうを見れない。 「能無しを作るのがビジョーア家の教育方針か? 」 リオ呼びがそこまで嫌なのは知らなかった。 俺は今まで、どうしても甘えたくなった時にリオ呼びをしていたことがある。何を隠そう俺の名前の末尾にもリオがついているので、自分の名前を呼んでいるだけですという誤魔化しが出来る。 愚かだとしても保険を掛けたいお年頃だった。 こんなに嫌がっているとは思わなかったので「二人合わせてリオリオですね」と訳の分からないことも言った覚えがある。 今後は絶対に言わないようにしよう。 ----------------------------------------------------- (主人公の名前を出さない形で話を進めていますが、今回のやりとりで予想がつくかもしれません。ひねりはありません)

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