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【15】根性がありすぎる

アリリオさまに叱られたのがショックなのか、言葉を失くすベラドンナ。  彼女は夢で見た印象よりも随分と幼い。 夢の中での認識が歪んでいたのか、この後に彼女が悪に染まっていくのか。  生まれついての悪人は居ないと思いたい。  最初にガツンとやったことで、よりよき平和な未来になることを祈ろう。 「して、いつから来るのだ?」 働き口を探している人間への日付確認のようだ。 パっと顔をあかるくして「すぐにでもっ」と答えるベラドンナは心が鋼で出来ている。 根性がありすぎる。 俺だったら、こんな家に嫁ぎたくない。 何が彼女を突き動かしているのだろう。 アリリオさまを純粋に慕っているのか、親から公爵家と縁を結ぶように言われているのか。 「質問があるのですが、よろしいですか?」 「許可しなかったら口にしないのか? その程度の重要度が低い問いかけは意味がない」 「ただいま、質問内容を練り直しました。あらためて、失礼します。ビジョーア嬢、先程、アリリオさまから妻に求められたと言いましたが事実でしょうか?」 もちろん質問の内容は変えていないが、ぐだぐだうるさいアリリオさまを無視するにはこれが一番だ。 要は質問するのに許可はいらないと言ってくれている。 どんなことを誰に聞いても咎められないなら、疑問は晴らしておくべきだ。 「えぇ、嘘偽りはございません」 自信満々に豊満な胸をそらす。 思わず凝視していたらアリリオさまに足を踏まれた。 自分のものを視線で穢すなということだろう。ケチだ。 「アリリオさま、彼女に直接打診なさったのですか?」 「そんな不躾なことをするわけないだろ。ビジョーア伯爵に話を通した。側室でも、下働きでも、好きに使っていいということだ」 こういうことをベラドンナの前で平気で口にする、ポンコツクソ野郎なところがあるのが、アリリオさまだ。 プライドが高そうな彼女を口説けるのかという疑問がある。 政略結婚であるなら、俺に対する攻撃性は正妻ではなく側室として迎えられることにプライドを傷つけられていると思える。 その場合は、長らく待たされ、コケにされた屈辱に震えていそうなものだが、彼女は我慢している。 気が長くない彼女が我慢できる理由が分からないのが気持ち悪い。アリリオさまからの寵愛があるのなら、二人で俺を納得させるための芝居をしているとも考えられる。 つまり、ベラドンナは俺の言い分に腹が立っても、自分の立場がすぐに上になると確信しているから受け流せる。 ベラドンナから感じる、絶対に引かないという硬い意思、その理由が見えてこない。 立ち上がったベラドンナがアリリオさまと距離を縮める。 何をする気なのかと思ったら、アリリオさまの手を取り、自分に引き寄せようとした。「なんのつもりだ」とアリリオさまはその手を振り払う。 彼女は怒るでも悲しむでもなく堂々と笑う。 勝ち誇っている人間の顔だ。 思わずめまいがした。 どうして、夢の中の俺は気が付かなかったのだろう。 彼女を直視することが恐ろしかったのかもしれない。 異能を使って見ていたら、すぐに気付いたはずだ。 俺は出産後に弱っていき、目も見えなくなっていた。 気づけるとしたら、初対面のこの瞬間なのかもしれない。 側室という存在へのショックで、俺は一番大切なものを見落としていた。 彼女を公爵家に迎え入れてはならない。絶対にだ。

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