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【17】へっぽこ人間
◇◇◇◆◆◆
アリリオさまに強めに肩を揺らされる。
白昼夢を見ていた。
ビジョーア・ベラドンナを見て、気分が悪くなってめまいの中で、夢を見ていた。
俺の息子がアリリオさまの乳母であるファーラと会話していた。
ファーラは本当に忠臣だ。
公爵家のことを本気で考えてくれているありがたい存在だからこそ、暇を出したのだろう。公爵家の中に居たら俺の死の真相を嗅ぎまわって、命を落としてしまうから。
今回、主治医の首吊りの真相については触れていなかった。
息子が俺のことを大好きだと思っているという、いい夢だった。
「なにを呆けている」
「俺の息子は最高だなと、思っていました」
「令嬢の前で下ネタか。気が狂っているのか」
お腹を撫でて言ったのだが、アリリオさまの視線はへそよりも下に向けられている。
日が高いうちから、そんな話をする人間だと思われているのは心外だ。そういう話題はベッドの中でするものだ。
「目の前のことが、衝撃的で……意識が遠くに行っておりました」
「白目を剥いた貴様のブサイクな顔も衝撃的だったな」
失礼なことしか言えないのだろうか。
息子の素直さを見習って貰いたい。
それとも息子も大人になるとアリリオさまのような、へっぽこ人間になってしまうのだろうか。
「ビジョーア嬢、失礼ですが妊娠されていますね」
俺の指摘に焦ることもなく「まあ、気づかれまして?」と嬉しそうな顔をするベラドンナ。
頬を紅潮させる姿は可憐な乙女だが、やろうとしていることは国家反逆罪だ。
健康的な男子の王族であるアリリオさまの子供を詐称するのは、許されることじゃない。
何かの弾みでアリリオさまの子供が王位に就く可能性だってある。
托卵など、あってはならない。
俺じゃなかったら、見逃しちゃうね。
「公爵閣下の子ですわ」
「ありえません」
否定する俺に不快そうな顔をするベラドンナ。
彼女が公爵家に入り込もうとした理由は、すでにお腹の中に子供がいるからなら納得できる。
アリリオさまに愛されていると勘違いしているのはよくわからないが、子供の父親はアリリオさまではありえない。
「俺はお腹の中に居たとしても、父親が誰か分かります」
安産の異能の副産物として、優秀なタネを持つ人間を見つけられる。それだけでなく、血縁関係なども見えてしまう。
「いろいろと見てきた経験則もありますが、あなたのお腹の子はアリリオさまの成分が含まれていません」
「経験則だと? 貴様、今まで孤児院への奉仕は陛下の命令か?」
自分の子供だと詐称しようとした犯人であるベラドンナへの興味がゼロ過ぎてビックリする。
アリリオさまから「貴様は孤児院に行くことを禁止する」と言われてしまった。
話の軸がブレるから黙っていて欲しい。
今の会話だけで俺が陛下からご落胤を探すように頼まれていたことを見抜くのはすごいが、話題の中心はそこじゃない。
「わたくしは公爵閣下と何度も愛し合ったのです。閣下は情熱的で、性技にも秀でており、快楽の海に溺れましたわ」
酔っ払ったようなベラドンナに「人違いですね」と断言できた。
アリリオさまが性技に秀でているわけがない。
今夜、俺が頑張ってリードしようと思っていたところだ。
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