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【20】信じられない

てっきり、自分と息子の未来が見える異能を手に入れたのだと思っていたが、そういう訳ではなかったらしい。 アリリオさまの行動を背後から、あるいは俯瞰して見つめて知ることになった情報は多すぎる。 主治医が亡くなったことで、主治医が知る秘密である俺の遺体の場所が誰かに漏れたと感じたアリリオさま。 想像は的中したが、主治医殺しの犯人として疑った側室は不発。 俺に毒を盛った犯人(仮)ではあるので、火傷を負わせて報復してくれた。あの行動が俺のためなのかもよく分からない。 ベラドンナが口にしていたアリリオさまが用意したという毒草。 俺のことが目障りで殺したかったのだろうか。 それに主治医の件。 主治医は目が悪くなっていて、毒草が温室に混ぜられていたのなら、取り間違いが起こっても仕方がない。 主治医は俺に薬と間違えて、毒を盛ってしまったのではないだろうか。それに気づいて罪悪感から自殺してしまった。 死ぬ前に俺の墓の場所を誰かに伝えたというのも不自然なものではない。登場しなかった息子が墓を暴いたのかとも思うが、それだと主治医の首吊りに驚いていた場面と矛盾が出る。 手紙などが残されていた可能性もある。 どちらにしても墓を暴くなんて常識外れも良いところだ。 誰がやったにしても許されない。 それにしても、夢と会話ができるシステムなのも初めて知った。 あるいは、あの後に空から人が降ってきたり、連絡用の小鳥が居たのかもしれない。 俺に向けた言葉であると勘違いしているだけ。 「不調は治りそうにないな――もう、下がれ」 アリリオさまが俺の手を揉みながら言った。 俺の手は柔らかいのだろうか。どうして、揉まれているのか理解できない。  うずくまる女性、ベラドンナに視線を向けることもない冷酷な公爵閣下。そんな相手に真顔で手を揉まれる俺。 どうしてだろう。 アリリオさまが俺のことを物凄く気にしてくれている夢を見たけれど、信じられない。俺の死にざまや後ろ盾のない息子の境遇は想像の先にある未来の形なので受け入れられるが、アリリオさまはよく分からない。 「コレが使い物にならないのなら、あたらしく候補を探すしかないな。貴様、心当たりはあるか。妊娠出産に問題なさそうな女だ」 過去に異世界から召喚された勇者が多用したとされる言葉「一難去ってまた一難」とはこのことだ。 ベラドンナが側室にならなくても、あたらしい側室が俺の暗殺を実行しないとも限らない。無感情にベラドンナを拷問していたアリリオさまの側室になるのは、まともな女性もかわいそうだ。 性格の悪い自分の利益を優先するベラドンナタイプなら、素っ気なくされてもめげないかもしれないが、普通はへこむし落ち込む。 夢の中では俺の死を悼んで、惜しんでくれているような、見ているこちらの胸が締め付けられるような表情をしていたアリリオさまだが、現実はこれだ。俺に対する情がなさすぎる。 俺と自分の息子よりも下半身の息子の喜ぶことばかりを考えている。これは絶対によくない流れだ。

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