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【21】人の心を失っている
「結婚出産に問題がない女に心当たりはありませんが、男ならここに居ます。俺がご希望の数を産むということでこの話は終わりにしましょう」
「貴様は家畜のつもりか。希望の数などあるか」
怒られてしまった。
女性を孕ませたい欲望が強いのだろうか。
だが、初夜からして暴れん棒な下半身は穴破壊兵器と化して俺をベッドから出さないために大活躍だった。
体が弱いから加減するようにと言わなければ、壊されたはずだ。
襲い来る暴力のような性行為を気持ちがよく、絆を深めるための行為に俺が誘導しなければいけない。
家畜ではないのだから、食べられるために待ってはいけない。
恥ずかしくても、主導権を取るためにアリリオさまを縛り付けてでも乗りこなす。気の強いベラドンナのことを考えると押し倒すよりも上に乗られたりするほうが、好きなのかもしれない。
「エビータの異能と普通の妊娠とは違います」
「異能は神から与えられた奇跡であり、万能の力ではない」
「その通りです。異能があろうとも不可能なこともあります」
五人ぐらいなら問題ないという確信がある。
過去の例もあるが、エビータの出産は命を削るものではない。
一般的な出産と違い神の奇跡が働いているので、妊娠中も出産後も痛くも苦しくもない。
姉と同い年の親戚が同時に妊娠して、二人の体調がまるで違っていた。異能の強さが、体調の差につながる。エビータの記述として残されていた情報が、目に見える形で真実だと分かった。
異能が強いとされているエビータの男である俺なら、苦も無く子供を産めるのは間違いない。
女体が良いとわがままを言うアリリオさまの考えを変えるという当初の予定通り、俺はまだまだ頑張るしかない。
「異能がなくても可能なことだってあるのですよ」
微笑む俺に「ほお、貴様の考えを聞かせてもらおうか」と冷笑のアリリオさま。
怖すぎて目を見て話せない。
微笑む形の口元に反して雰囲気が冷たすぎる。
下を向いたせいで、こちらをにらみつけていた地面に座り込んだままのベラドンナと目が合う。
何かが飛んできたと認識は出来たが、避けられない。
硬直した体はアリリオさまに引き寄せられたことで、穴があかずに済んだ。
ベラドンナの父親であるビジョーア伯爵は血を固めて剣にするらしい。体液を硬質化する異能をベラドンナも持っているのだろう。
「つばって、遠くまで飛ぶものですね」
「何を暢気なことを言っている。自分に対して敵対行動をとった人間だ。見せしめに乳房を切り取ってステーキにして食べさせろ」
おそろしいことを平然と口にするアリリオさまに夢の中での拷問は拷問とは呼ばないレベルだったのかと思い至って、ゾッとする。
息子への鞭打ちもアリリオさまにとっては頭を撫でることと同じ可能性がある。
自分に歯向かう人間に対して容赦がない。
身分を考えれば仕方がないと思っていたが、過剰すぎる。
これは直してもらわないと息子にとって悪影響だ。
「貴様は先程から、アレの胸を見過ぎている」
「立派にたゆんたゆんしていたら男なら誰でも見てしまうものです」
「開き直るな、不埒者め」
なぜか俺が責められている。絶対におかしい。俺のまわりの使用人は巨乳といっても胸筋が発達している大柄な女性ばかりだ。
世間一般での巨乳には馴染みが薄いので、チラッと見ても許して欲しい。
「以前にも言った通り、男はスケベなものです」
「――そうか、なるほどな」
何かを納得したようなアリリオさまに手を引っ張られる形で、立たされ、連れ去られようとする。
神経が太すぎて人の心を失っているベラドンナはアリリオさまを呼び止めた。普通の精神力じゃない。
どう考えても挽回できない状況にもかかわらず、縋るような顔でこちらを見る。
「このままでは、わたくし……家に帰れません」
そりゃあそうだとこの場の誰もが思うところだ。
ベラドンナはすでにそれだけのことをしている。
せめて、騙されていたのだと、陥れられていたと命乞いをすれば助かったかもしれない。
自分は被害者であり、アリリオさまを騙すつもりはないと言っていれば助かった。公爵夫人というありえない夢など見なければ、アリリオさまもビジョーア伯爵に口添えしてくれたはずだ。
「そうだな。家ではなく処刑台に行くといい。罪状は捏造するまでもなく大量にあるからな」
口添えどころかビジョーア伯爵に不利益な娘を見捨てるように助言するだけだ。あまりにも優しさがない。
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異能がなくとも、可能なこと→スケベっていう意味です。
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