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【28】距離を置かれている

切実に助言役が欲しい。 アリリオさまのことを分かっているとなると乳兄弟の執事が適任かもしれない。 湯船に手を入れて温度を確認しているアリリオさまの指を握る。 「アリリオさま、執事の――」 「ピネラに背中を流させる気か? 二時間待っていろ。私が全身を洗ってやる」 「お手を煩わせるわけにはいきません」 「仕方ない……。リー、ライ、足の裏からくるぶしまで許可する」 全然、洗うことを許可されていないが、リーとライと呼ばれた使用人の女性二人がバスタブに近づいてくる。 そもそもバスタブに入れられた俺が完全な裸ではない時点で、洗うどころか、見ることも許していなかったのかもしれない。 「この二人は今後、貴様の周りをうろつく。顔を覚えていろ。邪魔だと感じたら適当に仕事を与えろ」 俺専用の侍女がいないと思っていた矢先に専用の侍女が現れた。 アリリオさまは心が読めるのではないかと疑いたくなる。 いいや、心が読めるならもっと会話はスムーズに進む。 タイミングがいいだけだ。 「髪を上で一つにまとめているのがリーで、下でまとめているのがライ? よろしくね」 俺の言葉に二人は静かに頭を下げるだけだ。 以前から感じていたことだし、悪夢の中でもそうだったが、俺は使用人に嫌われている。 正確には距離を置かれている。 当主の嫁が男というのは使用人の立場からして、嫌なのだろう。 俺に対して好意的に見えるアリリオさまの乳兄弟である執事も声をかけるとよそよそしい。 温かいまなざしに反して会話を避けられるので、地味に傷つく。 アリリオさまのことをよく知っている相手なので、噛み合わない会話の通訳や緩衝材になって欲しいが、同席して欲しいときに見当たらない。 公爵家の執事なので忙しいかもしれないが、執事は複数人いるのだから、俺の話を聞いて、俺の力になってくれる人も欲しい。 アリリオさまが浴室から去ると圧迫感のある空気は消えるが、さみしさもある。 俺のせいで予定が押してしまって忙しいのは分かっているが、もう少しまともに話をしたかった。 未来のことについて対策を立てつつ、エッチなことをして主導権を取るつもりだった。 バスタブの中で足をのばすとカタマリに当たる。 俺の頭にぶつかって湯船の中に入った何かだろう。 イラっとしたので足先で遊んで、潰す。 お湯で柔らかくなっていたのか、思ったよりも手ごたえがない。 持ち上げてみると高価な果物だった。 もったいないとつぶやきながら、自分の顔にくっついていた花を剥がして見つめる。お茶に使われる花だ。花も葉っぱも、食用の、高級品種だ。 令嬢たちがお茶会で口にするものを湯船にぶちまけている。 贅沢だと感動するよりも先に誰にともなく、申し訳なく思ってしまう。果物の皮だけでも立派な湯船だったはずが、果肉と花と葉っぱという具沢山ぶりに頭が痛くなる。 おいしい香りの俺を食べてしまいたいとか、そういう話にしてもまだ昼前だ。日が高いうちからおかしい。 ヤリたいときがヤリどきで、時間は関係ないのだろうか。 忙しすぎて、ちょっとした休憩時間にヤリたいのかもしれない。 想像上のアリリオさまは、だいぶクソ野郎だが、実際の気持ちはどうなのか分からない。

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