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【30】不名誉な噂
今後は堂々と「これが私の仕留めたガメメだ」と言われて、ガメメ料理を食べることになるのだろうか。
精力剤だというのなら子作りの合図かもしれない。
すでに子供がいるので、ガメメの肉は部下たちが口にする可能性もある。アリリオさまの部下というよりもアリリオさまの父親である元帥の部下かもしれない。
「俺がガメメを食べてみたいと言ったら、夜の誘いに該当する?」
リーは沈黙したが、ライは「んだんだ」と肯定するような声を出した。
ちなみに二人とも依然として表情筋は仕事をしていない。
「奥様に事実をお知らせするよりも旦那様の喜びを優先したことを命を持って償う所存」
「その返事で知りたいことは分かった。リーは気にせずにね」
単純な誘い文句ではなく、高度な表現なのかもしれない。
貴族は知る人ぞ知るマイナーなマナーや知識をひけらかすのが大好きだ。知識人というのは、普通の人は知らない昔のことや新しいことを実践できる人種のことを言う。
言葉一つで、一目置かれたり、激しく見下されたりする疲れる場所をもてはやす。
「正しい意味を知ったからって、使わないとは言ってないよ」
「旦那様との夜がお好きではないと……勘違いしておりました」
深く頭を下げるリーと「んだんだ」と相槌を打つライ。
どうして使用人にバレているのだろう。
「シーツを替える頻度が思った以上に低かったもので、旦那様はふにゃちん野郎だと使用人の間では定着しておりました」
知らない間に随分と不名誉な噂が出回っていた。
俺に魅力がないからという理由にならないのは不可解だが、アリリオさまの性欲が誤解されているのは悔しい。
俺はシーツを汚さないために毎回がんばっていた。
アリリオさまはだいぶすごいが、巨漢にしか見えないとはいえ女性に言うことでもない。
シーツ自体は毎朝替えるものだが、行為で汚れた場合はその場で替えるのが普通だ。浴室や別室に移動して、使用人に寝室を整えるように指示を出す。
公爵家の使用人が優秀で、それが仕事とはいえ、何度もシーツを替えるために夜中に呼ばれるのは大変だ。
そう思って、がんばっていろいろと耐えていた。
これは気を遣ったつもりで、失敗したパターンだ。
人が寝室に入ってくるのが嫌だと、最初のころにアリリオさまにお願いした覚えがある。なるべくシーツを汚さない方針は、俺だけで達成できるものではない。
「床が汚い居酒屋 が、良い居酒屋 という話か」
思わず深い溜め息をついてしまう。
俺はチキンの骨を床に捨てる文化に馴染んでいない。
そういった店に入らなくてもいい身分だということもあるが、何かをする際に汚くするというのが得意ではない。
シーツの汚れがひどく、シーツの替えが頻繁であれば、夫婦の仲は良好であり、子供の顔を見るのも早い。そういった使用人たちの常識に沿わない行動をとってしまっていた。
「俺はエビータだから、妊娠したからといって安静にする必要がない。だから、逆にね……子供を作るためではなく夜のための夜をアリリオさまと過ごそうと思ってる」
勇者語録に馴染みがあるとセックスやエッチという言い回しで通じるが、リーとライがどの程度の教養があるのか分からないので、言葉に気をつける。
「それは大変すばらしいことです」
アリリオさまへの好意を示すことで、二人の信頼を得ようと思ったが、予想以上の反応だ。
リーは感動して、瞳を潤ませている。
無表情のままだが、ふにゃちん野郎と言いながら、アリリオさまのことを尊敬しているだろう。
ライは目を細めた。
それが精一杯の笑顔であるのかもしれない。
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繁盛店の床は汚い=掃除が追い付かないほど客が来ている=料理がおいしく大人気。
(日本だと清潔な店が良い店ですが、
食べたら床にゴミを落とす風習がある国は、汚れイコール客が多い証になったりするとか、そういうニュアンス)
ちなみに主人公はゴミはゴミ箱派ですが、
公爵家にゴミ箱はなくて困ったことがあるとか、そういう日常の小ネタをいつか書きたいです。
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