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〔二〕自分だけの特別な相手以外を気にかける意味などない

指の先を舌で突いたり、軽く噛んでくる。 いつもなら絶対にしないことだ。 はしたないと感じているのか、性的なことに無頓着だ。 自分が私の目にどう見えているのか自覚がない上に性欲が薄いと勘違いしている。 朝に「男はスケベな生き物です」と言っていたが、その通りだ。 我慢していたと言っていたが、表情は我慢していなかった。 明日の予定を考えて休ませようとしても、いつも目で「もっとしたい」と訴えかけてくる。 慎ましやかな人間を装いながら隠せていない情欲の香りは、いっそ麻薬のような中毒性がある。 我を忘れて乱れたがっている気配があるというのに理性は負けを認めることをしない。 冷静に考えを巡らせているようでありながら、何一つ出来ていない。 敏感な身体では何を考えたところで実行できない。 体と心の乖離について、あまりにも意識が足りない。 明日の予定を口にして、今日はこれで終わりにしようと言いながら、こちらを締め付けて離さないことはよくある。 口の中に指を入れてかき回す。 一瞬、嫌な顔をしたが、口の中を刺激されるのが気持ちいいのか目をつぶって快感を受け入れる。唾液量が増えて、口の中が熱くなっていく。 浴室の中だと、こういった行動を心の底では嫌がらない。 ベッドの中では、唾液で服やシーツを汚すことを病的なほど嫌がって、抵抗を示すこともある。 汚れに対して拒否感があるのではなく、汚れたシーツを使用人が替えに来ることを嫌がっていた。 潔癖症なのではなく、他人に何かをさせることを恐れていた。 使用人であったとしても仕事外のことを頼まない。 主人の頼み事がなければ彼らの仕事は成立しないが、視野が狭い愚か者はそれを理解しているくせに唐突に忘れる。 願い事を口にするのが、大罪だと思っている。 神にすら何も願わない狂人は、私にだけ遠慮がちに希望を告げる。 聖職者が滝に打たれているような風体にもかかわらず、物欲しそうな顔をする。 声なき声がもっとしたいと訴えている。 平常時の記憶に残らない、貴族らしからぬ顔立ちが、欲に染まるとがらりと雰囲気を変える。この淫靡さが女傑と名高いエビータの力なのだろうか。 男であろうと、エビータはエビータだ。 油断すればこちらを食い殺そうとする。

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