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〔八〕自分だけの特別な相手以外を気にかける意味などない

「妊娠していると言っても異能により安産が確定しているのだろう」 「――対処療法として、暴力は如何なものかと」 「手を突っ込むよりも外からが平和的解決法だと思うが?」 「自分で頑張るので、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」 血の気の引いた顔で微笑む彼は私のことを馬鹿にしている。 さすがに手が入るほどガバガバではないと分かっている。そもそも、解れていなければすぐに挿入が難しいほど慎ましやかだ。 「子供が出てくるなら、ある程度は広がるものか?」 「そのあたりはエビータの神秘なので、お答えいたしかねます」 異能によって子供なら、出入りが自由ということだろうか。 子供を作るのに必要な精液を届けるイチモツが、すんなり挿入できないのは、彼の異能が弱いせいなのか。 すでに妊娠しているから、これ以上は要らないと体が拒んでいる可能性もある。 「貴様は私に感謝するべきだな。時代によっては実験対象になったであろう?」 「――そう、でしょうね。エビータの男子は、異世界からやってきた人間のための存在であることがほとんどです。勇者ではなくとも、異世界の知恵は生活を豊かします。女性は警戒されることが多いですが、男は友人の顔をして隣に居座れますからね」 不愉快な話題だ。 この世界に馴染めずに心を病んでしまう異世界の人間が出ないよう、エビータが囲い込む。 勇者によって魔王は倒されるかもしれないが、世界を救っているのは勇者の心を支えたエビータだ。 世界を救うよう、|他人《勇者》を誘導するために人生を消費する。 ここ、五十年ほど、勇者が召喚されるような事態は起きていないが、彼もまたエビータの一族の者として、勇者のことを言い含められて育っている。 入浴剤として湯船に入れた植物を気にしても、最初の夜からずっとバスタブに驚くことはなかった。バスタブは希少品だ。価値を知らない貴族は居ない。 彼の実家には、普通にバスタブがあるのだろう。 魔道具は数が限られた高級品だ。勇者の残したアーティファクトなら、さらに珍しい。子爵の持ち物としてありえない。 子爵の子供が勇者のアーティファクトに馴染みがあることは、通常ではありえない。 彼が勇者の花嫁(エビータ)であるからだ。 伯爵ぐらいならば、客人に自慢気に見せびらかし、当主しか使用を許されないそういう類のものだ。 「肉体関係がある友人は、友人ではないと思います」 急に何を言い出すのか、意味不明だが、話したいことがある顔をしている。自分の身体のことは考えないことにしたのか、私の性器を握ってきた。嫌がらせにへし折る気だろうか。 手を叩き落としたくなるが、人に危害を加えられる人間でもない。 彼に対して警戒心が働かない。 「アリリオさまと私は友人ではにゃーふぅー」 キリっとした澄まし顔で話し始めるので反射的に乳首をつねりあげていた。ひんひんと奇怪な声でかわいらしく啼いているが、何を口にしたかったのか分からずじまいだ。 どうして乳首をつねられたのか分からないという顔をするので、反対側もつねっておく。取れちゃうとつぶやいている元気があるので、問題ないだろう。痛かったら、悶絶して声も出ない。 「それで、どうした? 口調は気にしないが、一人称は変えるなと言っただろ」 私の言葉が意外だったのか「自分は私って言うのに俺が私って言ったらこんなあつかい受けるの?」と思わずつぶやいた。 出会ったころから思っていたが、衝撃を受けると口が滑る人間だ。 「当たり前だ。私は私だ、貴様が貴様であるようにな」 乳母であるファーラが彼の世話役として優秀なのは構わないが、楽しそうに砕けた口調で会話を楽しんでいた。 私との対応の差について考えたことはないのかと問い詰めたくなったが、乳母相手への嫉妬は見苦しいので、告げていない。 使用人たちのほうへ彼に話しかけないように命令しておいた。 人と話がしたいのなら、私が居るというのに彼は私の前では口数が少ない。表情はそこそこ変わるが、言葉と合っていない。 今回も、苦い薬を吐き出したそうな顔をした後にいつも通りの声で「ご配慮くださりありがとうございます」と言ってきた。表情と声色が合っていない。言い足りなさそうだ。 「俺とアリリオさまは、友人ではありません」 やけっぱちのような尖った声だが、親しい相手にはこのぐらいの言い方をするものだ。すこし面白くなって、続く言葉を待つ。 「友人ではありません」 どうしてか繰り返してくるので、頭を軽く叩く。 他国から仕入れた機械仕掛けの蓄音機の挙動がおかしくなったら、こうして軽く振動を加えると正常に動作する。 「なんで、叩くんですか!」 いつになく不満そうな顔をされたが、おかしなことはしていない。 頭ではなく乳首を叩くべきかと手を伸ばすと先手を打ったように性器の先端を親指で撫でられる。 椅子に座っていた腰が思わず浮いた。 「友人同士は、こういうことをしません」 「当たり前だ。するというなら、貴様の友人は一人残らず僻地に飛ばす」 「えぇっと……だから、話が進まねえな……ごほん、ビジョーア嬢の処遇についてです」 真面目な顔で、真面目な話をしようとしているが、手元は依然として私の性器をいじくりまわしている。 彼は自分が異常だという自覚がまるでない。 これは誰も知る必要がない夫婦間の話なので私だけが分かっていればいい事だ。

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