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【1a】あらがえない衝動
他人に期待するのはやめなさいと初めに言ったのは母だった。
物心ついた当たりの記憶は、あいまいで部分的に鮮明だ。
期待するなという言葉が、とても突き放されたものに感じた。
安産の異能を持っているエビータなのに男を産んだ母は、祖父が男は異能を強く持っているという過去の文献を探してくるまで、肩身が狭かったはずだ。
どうして俺が男なのかという言葉は、昔からよく聞いていた。
安産の異能を重視するなら、性別が男でも男としての生き方は出来ない。剣も持たない俺は、貴族男子の義務である魔獣討伐に参加することはない。
アリリオさまとの婚約は、俺の義務を婚約者であるアリリオさまが代わりに行っているということになっている。
国内最高戦力であるアリリオさまをこき使うための理由を美談で済ませられ、俺への批判を封じることができる。
俺への批判はアリリオさまへの批判であり、王族への批判になる。
王が認めた婚姻に誰が否やを言えるだろう。
異能を発現していない代わりに健康的なアリリオさまと最強の子を産むエビータである俺という組み合わせは、いろんな意味で妥当な取り合わせだ。
それが分かっていたから、俺は期待していたのだろう。
他人に期待するのをやめるように母にも、姉にも、妹にも言われていた。それなのに期待していた。
期待してはいけない理由を説明されても分かっていなかった。
嫁ぐ前に姉は言っていた。
『他人に期待するということは、自分の心を相手に任せるということよ。相手が期待通りに動いてくれなかった、それが仕方がないことでもガッカリしてしまうでしょう。自分の感情は自分で手綱を握っているべきなの』
姉は雄々しく、心臓を二回叩いて見せた。
自分の心を他人に渡すなという姉の言い分は、分かるようでいて分からない。
期待しないでいようと思っても、自分ではない誰かが、自分を愛して大切にしてくれるという想像は、とても魅力的なものだ。
憎まれ、恨まれ、疎まれるよりも、仲良くしたいし、愛されたい。
これは、望みすぎなのか、ずっと考え続けていた。
期待しすぎないよう、望みすぎないよう、気をつけていたせいで、アリリオさまとの関わりを消極的なものにしている。
何年も前に言われた、初対面のときの言葉を引きずる心の狭さ。
十代前半の言葉など、言ったほうは忘れているに決まっている。
俺も忘れてしまったと思い込みたいのにできない。
「そんなに美味しいものか?」
アリリオさまのちんこを舐め続けている俺は、考えるまでもなく気持ちが悪い。見てくれは悪くてもテクニックでのし上がる、そんな期待を抱いていたのに何の準備もないままに始まった。
昔に読んだちょっとエッチなエビータの私小説の内容以外で、男への奉仕の仕方を俺は知らない。
性生活のススメというような読本はあるが、アリリオさまのされるがままに任せて、技術を磨かなかった。
腫れているのか、刺激を受けすぎて痛む乳首とちんこ。
破壊されそうな恐怖を感じる穴や中。
主導権を握れば改善されるとも思えなかった。
だが、俺は一人で惨めに死んでいかないと決めたのだから、このメチャクチャな状況を変えていかなければならない。
だというのに、アリリオさまの先走りちんぽ汁に夢中。
俺が篭絡するべきなのに全面的に敗北している。
悲しいこともつらいこともちんちんぺろぺろしてたら忘れられるって、そんなわけあるかと他人事なら思うところだ。
自分が誰より実感しているので、嘘だと笑い飛ばせない。
最初はローション匂いや味だと思っていたけれど、違う。
アリリオさまの体臭や体液が、ものすごく美味しい。
爽やかな花茶、ジューシーな果物、暑いといくらでも食べたくなる氷菓子。同じものばかりを食べるとお腹を壊すからダメだと取り上げられてしまう好物を連想させる香りと味。
精液も絶対に美味しいはずと俺の舌が求めている。
馬鹿言ってんじゃねえよと自分を全力で止めたいのにあらがえない衝動に従ってしまう。
あごも舌も疲れているはずなのに飲みたいという欲求が大きすぎて、とまれない。
攻略するつもりが、攻略されすぎだ。早く正気に戻りたいが、このままのほうがいい成績を残せそうな気もする。
がんばると決意しても腰が引けていた俺が、前のめりになりすぎて自分自身に引いている。これはこれで好機と思うしかない。
姉に「あんたにはレベルが高いかもねぇ」と言われた、あれこれを読む日が来た。
とりあえず、さっさと射精しろと顔を上げてアリリオさまを見てしまう。水も滴るいい男っぷりがまぶしくて、すぐに下を向くことになる。なぜか、頭を撫でられた。
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内容が地続きなので新章という感じがしませんが、
前話で側室(候補)ベラドンナの処遇についてきちんと出たので、そこで区切りという形。
今回からナンバリングが【1a】になりました。
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