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【2a】変わらない
正しく頭を撫でられるようになって、アリリオさまも嬉しいのかもしれない。基本的に動物に嫌われると言っていた。抱き方が雑だからだ。赤子を抱き上げられずに孤児院の少女から呆れられていた。
アリリオさまは、俺の言い分をなんだかんだで却下しない。
聞く耳を持たないわけじゃない。
ただ、冷酷な人でなしフィルターにより、言葉が正しく届かないことがある。
ポンコツなアリリオさまの解釈を責めるのは、脳内ではなく言葉にしていかなければいけない。
そんな失礼な態度のやつは知らないとそっぽをむかれたらどうしようと俺は未だに思っている。
家庭内絶縁の可能性があるので、下手なことは言えない。
と思い込んでいたのが、そもそもの間違いなのだろう。
こんなことしたら、こんなこと言ったら、嫌われるんじゃないかという場面が今日だけで十回以上もあった。
客観的に見て、俺の立場なら許される言動だとしても、アリリオさまが許すかは、また別問題だ。
逆に世間から常識がないと言われてもアリリオさまが許してくれるなら、俺の行動に問題はない。
家の中での立ち振る舞いというのは、当主の考え方次第。
悪夢の中でどれだけベラドンナが非常識な振る舞いをしても、アリリオさまが放置していた以上、公爵家では容認される。
使用人たちが彼女を追い出すことなど出来ない。
立場や権限の問題は、繊細だ。
公爵家は思ったよりも緩いのかもしれないけれど、言葉を間違えて職や命を失う人を俺は見たことがある。
貴族に仕えるということは、誇らしいことで、家族が経済的に豊かになるが、反面、主人によっては、おぞましく、給金に見合わなくなる。
「どうかしたか?」
頭を撫でる程度の力で俺の頬を撫でるアリリオさま。
ちゃんと応用も出来るらしい。
俺の言葉を無視していない。
嫌がっているようには見えない。
それを考えると意外と言動の調整は必要ないのかもしれない。
「――アリリオさま、俺の匂いって、どんなものに変わりました?」
俺はこんなに好物の詰め合わせに理性が飛びそうになっているのだから、アリリオさまも同じはずだ。
それがローションの力だと言っていた。
「とくに嗅覚は変わりないな」
好きな食べ物がない人には効果がないのかもしれない。
それか、ローションの原料であるじゅるるの実以外が俺の好物で、アリリオさまは好きではないから相殺された可能性がある。
むしろ、嫌いなものかもしれない。
口を開くのが億劫で、花茶に夢中になっていますという体で飲み続けていたことがある。アリリオさまに茶器を捨てるとまで言われた。
あれは、自分が話しかけたのに無視されたので拗ねていたのかと思ったが、気に入らない花茶を美味しそうに飲んでいるのが不愉快だった可能性がある。
よくそんなマズいものを飲んでいられるなという感想が冷たい空気として部屋を寒くさせた。ありえる話だ。
「味覚も――変わらないな」
俺の腹に飛んでいたらしい精液を指先ですくって舐めた。
優雅な動きにされるがままだったが、おかしい。
精液を優雅に舐めとる、それ自体は元より、俺の精液の元々の味を知っているのはどういうことだ。
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