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【9a】人望がない
「息子も第二王子のせいで、アリリオさまに不信感を覚えて喧嘩していました」
生まれてもいない息子を引き合いに出したくないが、親子の溝はなるべく埋めるべきだ。
受け入れるべき部分と否定しなければならない部分とがある。
「執事の弟さんは、アリリオさまが淡々と第二王子と接していたことで、不信感を覚えたのでしょう。悲しくても苦しくてもそれを外に吐き出したりしない、その姿を冷たく感じたのです」
息子が第二王子の言葉を持ち出したのは、アリリオさまがうろたえる姿を見たかったからだ。人間らしい感情があるのだと知りたかった。
自分の祖母や叔父の死を、自分の母親の死を、悲しんでいると息子はアリリオさまの口から聞きたかったはずだ。
俺も、俺が死んだら悲しいのかと聞きたい気持ちがある。
悲しいかどうかではなく、そんなことにはならないと今のアリリオさまは口にする気がする。
これはアリリオさまではなく、俺の感じ方の違いだ。
よくわからない恐ろしい人ではなく、真面目な話をしながら、ちんこを勃起させて痛がっている、スケベな人だと分かっている。
「……私の人望がないという話に戻るではないか」
ムッとしているアリリオさまは人間らしい。
冷たい空気をまとっていない。
「いえ、本当に執事の弟さんは、アリリオさまを裏切っているのでしょうか。ビジョーア嬢の醜態を見て、自分がハメられたことに気づいて――という可能性の方が強いのでは」
執事は「たしかに」と賛同した。
悪夢ではスピード懐妊だったベラドンナが、現実ではスピード解任なのだから、推薦人である執事弟は何かしら思うはずだ。
悪夢との違い、行動を起こさせた理由。俺はそれを見過ごせない。
俺とは違いアリリオさまは、ちんこが痛くて頭が回らないようだ。
溜め息を吐いている。
痛みを逃す呼吸法だろうか。
「自分が他人にいいように使われた汚名を返上するために執事の弟さんが動いているなら、あっさり殺されるか、利用されるでしょう」
「探し出します」
「一人で行動せず、人を使いなさい。連絡も小まめにするように」
アリリオさまが言うべきことかもしれないが、声を出すのもつらそうなので、俺が代わりに伝えておく。
執事にとってたった一人の大切な弟かもしれないが、アリリオさまにとって、執事自身が大切な乳兄弟だ。弟だって乳兄弟かもしれないが、距離感がすごいので、部下と上司感覚だろう。
アリリオさまと執事の親しさとはレベルが違う。
「寒いから、扉を閉めてもらえる?」
「かしこまりました」
リーの言葉が終わらないうちにアリリオさまに持ち上げられた。
椅子に座ったままのアリリオさまの膝というか、太ももに乗せられる。子供でもないので、重いはずだ。こんなことをしたらアリリオさまの足を痛める。
意味が分からないでいたら、抱きしめられた。
「自分が侮辱されても怒らないくせに、馬鹿者め」
耳にかかる息が熱い。
少しして、第二王子に対して怒っていたことを言っているのだと気づく。
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悪夢ではスピード懐妊だったベラドンナが、現実ではスピード解任なのだから~、この文章を思いついたから愛愛(愛さないと言われたが、愛されないと決まったわけじゃない)を書こうと思ったと言っても過言ではない。(過言である)
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