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【10a】ボロボロの愛情

少しして、第二王子に対して怒っていたことを言っているのだと気づく。これは正式に抗議していい不適切な発言だ。 書面に起こして、堂々と謝罪を求めに行きたい。 そのぐらいしないと人を見下すあの第二王子は考えを変えない。 アリリオさまが彼らに不快感を見せると王子殿下の立場がなくなるかもしれないので、俺が代理として動くのが一番いい。 「夫が侮辱されたのなら、妻がそれを見過ごさないのは当然です」 逆の場合は、アリリオさまはいつだって怒ってくれた。庇ってくれた。 俺が動けないでいても、アリリオさまはそれを責めたりしなかった。 それがすごく嬉しくて、有り難くて、だからずっと、嫌われることが怖かった。見捨てられたら生きていけなくなる気がした。 好かれなくても、愛されなくても、それでもいいから、嫌われて捨てられたくないと思っていた。 でも、側室が来るとなって、俺は要らない人間なのだと知った。 ベラドンナと友人になったとしても、恋仲にはならないでくれと、訴えたつもりだけれど、つもりでしかない。 伝わっていない気がする。 「愛してます」 口にすると泣いてしまうような、ボロボロの愛情だ。 自己愛に近いのかと自分に問いかけたくなるハリボテさが恥ずかしい。 愛されるために愛を口にしてるわけじゃないと胸を張って言えない。 愛されないのは嫌だ。 愛してくれない人を思い続けるのは嫌だ。 愛されていないと感じるのも嫌だ。 優しさを感じるたびに喜びと不安が胸の中に渦巻いていた。 大切にされていると実感しないと悲しくなる、そんな自分のワガママさが気持ち悪い。 この世に他人はアリリオさましか居ないような、馬鹿げた依存心かもしれない。だが、エビータである俺は不貞を良しとしない。 嫁いだ限りは、アリリオさま以外に目を向けたりしない。 アリリオさま以外から仮に愛されたとしても、俺が求める愛じゃない。 「子供は俺が何人でも産みますし、えっちだって、いくらでも、大丈夫です! だから、側室は禁止の方向で――お願いしたいと」 浴室に連れ込まれる前に話していたこと。 この約束を俺は取りつけたくて、頑張っていたはずなのに声には力がなく近くに居なければ聞き取れない。 聞き返されて、もう一度同じことを言えるだろうか。 聞こえないふりをされたとしたら、言わないほうがいいのか。 抱きしめられているのに、突き飛ばされてしまうかもしれないと体に力が入る。 「そういえば、貴様――私の肉欲のために側室を迎え入れると愚かな想像を口にしていたな」 体を横に倒されて、アリリオさまの膝の上に体を横たえる。 子供のお尻を叩くときのような格好だ。 「私の性器に噛みついたのは、わざとか?」 そんなつもりはない。 勘違いだと訴えたい。 急なことで、言葉が出てこない。 「ココに入れたものが、取れなくなるかもしれないと、不安がっていたな。その不安を解消してやろう」 「はい?」 嫌な予感しかしない。 俺の覚悟が台無しにされた気分だけれど、ホッとしている。 生意気なことを言うなと叱りつけてくるわけじゃない。 ちんこへのダメージを怒られるのは、当たり前のことなので、受け入れられる。悲しくも苦しくもない。 きっと、男の俺では満足できないと言い渡されるのが、今までもこれからも恐ろしいのだ。 自分ではどうしようもないことを不満点としてあげられたら、それ以上、何もできない。 アリリオさまは、そういった発言をしない人だと信じているが、頭の中で他人に期待するなと口をそろえて家族が言っていたことを思い出す。 期待するなというのは、信用しすぎるなという意味だ。

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