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【幕間3】カラフル殺し
結局、わたしは街で宿をとった。
手配は公爵家の人間に任せた。
宿では、お代は結構ですと言われたのでチップだけ払っておく。
りったんは昔、お代は結構だと言われて本当に何も払わなかったことがある。宿屋の対応は、もちろん悪くなった。
何も知らないで、教えないで、育てたくせに、それでは問題がある、世間知らずにならないように世界を見て来いとクソどもは言ったらしい。
追い出されるように家から出されたりったんを心配して着いて行ったから知っている。宿屋に居ていいのか分からず野宿しかけていた。
前もって、家の人間が宿代を払ってくれていたことを理解するとりったんは、ホッとしていた。
服の裾をにぎるりったんの指先は血の気がなくなっていた。
何も分からないのだ。
誰も教えてくれないのだ。
怖いに決まっている。
チップだって、どのぐらいが相場で、どんなときに払うべきなのか、周りを見たり、周りに聞いたりで、情報を手に入れるには、りったんは幼かった。宿屋の人が冷たくなった理由が想像できない。
わたしが教えると「しーちゃん、教えてくれてありがとう。助けてくれてありがとう」と、ありがとうを繰り返して、泣かないように笑って見せた。
それとも、嬉しかったから笑顔を作ろうと頑張ったのかもしれない。悲しいときに泣いて、楽しいときに笑う。
逆に言えば、泣いていないなら悲しくない、りったんはそんなことを言う。人の感情は表情に引っ張られるらしい。
落ち込んだわたしに「悲しいときに笑ってると、なんでかおかしくなって、本当に笑えて、元気になるよ」と言った。
他の誰かが言ったら、こっちは落ち込んでんだよ、泣かせろよと怒鳴り返すところだ。りったんに言われると、落ち込んだことが馬鹿らしくて笑えた。
生きていると嫌なことばかりで、自分と価値観が違う相手は、全部クソだと言い切りたくなる。りったんと話していると、クソ野郎にもクソ女にも人生があるから、存在を許してやりたくなる。
誰が死んでも悲しまないようなクソはトイレで流すべきだけど、りったんは大便に性的興奮を覚える人もいるとズレた擁護をする。
そういうことじゃねえんだよと言いたいけど、クソはクソだと思っているところが最高に素敵だから、りったん大好きって結論になるしかない。
◆◆◆
公爵家が用意してくれた宿は、ランク違いでみっつ。
どこでもお好きなところをどうぞと言われた。
一番高級な宿屋に荷物を置き、真ん中の店でオススメの酒場を聞き、一番ランクが低い宿屋で、そこよりも安い宿屋を聞いた。
安い宿屋のまわりには、安い酒場や安い人間がいる。口が軽くて悪い人間には、りったんやその旦那様はどう見えているのか。
目立つ装飾品は高級な宿屋に置いてきた。
りったんから、金色を身につけるのは王族やその家族だけだから気をつけたほうがいいと注意を受けた。
何も知らずに、ぼへーっと生きているようなりったんが賢くなっていて、お姉ちゃんは嬉しい。
でも、惜しい。
わたしの目的は、この【単色限定 】あるいは【カラフル殺し】と呼ばれる異名を持つ、この国の現状確認だ。
一部の地域でのみ許される、きらびやかな装い。
貴族が装飾にお金を使わないようにという贅沢禁止令だとされているが、実際は、髪の色と瞳の色が違う子供を殺さないように色を話題にすることを避けた結果だ。
他国から来て異名を知らない人間は地味な街並みで、地味な服を好む田舎だと思うのかもしれない。
そうではない。この国が色をあつかえないのではない。
嫌っている。厭っている。
魔獣の大量発生で、世界中が混乱した時期がある。
どこの国も戦争をやめて、魔獣を討伐するために軍を動かした。
便乗して内部工作で国が荒れて、神にすがった者たちが、髪の色と瞳の色が違う子供たちを殺した。
彼らが信じる経典に、髪と瞳の色が異なる人種が、髪と瞳が同一である人種を迫害して、殺したことで、神が怒り、天罰が降り注いだからだという。
この地に居ていいのは、髪と瞳が同じ人間だけ。
今では古い話。だけれど、虐殺は本当にあった。
そんな歴史の国だからか、髪や瞳の色だけでなく、装飾品から雑談の中でさえ、色の話を禁止する。
色をみんなが認識しているのに、色の話をするのが下品だというのは、よく分からない感覚だ。
他国のパーティーでは、きらびやかなドレスを着る貴族令嬢が国内のパーティーでは、しなびれている。
伯爵以上の家の娘たちは、それでも色数の多いドレスを着れるので、華やかに見える。
疲弊している国内を無視して、着飾って豪遊しようとするクソ令嬢は、国のために踊り狂って死ねばいいが、庶民の意識はどうなのか。
金色にどう反応するのか、気になる。
りったんが、わざわざ注意をしてくれたので、破ってまで好奇心を満たしたくない。お姉ちゃんはそんな酷い人間じゃないぞと我慢をしたが、ついつい金貨を見せびらかした。
金貨については、ただの大金という感覚で「どうしたんだ、ねえちゃん」と財布に仕舞うように言われた。色に対する反応はない。
女だから殴って奪い取るという行動にはならない紳士的な荒くれ者たちだ。
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どこぞのティルナノーグが【才能殺し】と呼ばれているのに対して、この国は【カラフル殺し】。
触れないなら、触れないでいい設定ですが、外見の色彩設定について語ろうとすると国の話題になったりします。
あと、主人公(以外のエビータも)は異世界からやってきた勇者に合うように教育されているので、モノクロよりもカラフルが好きです。
(好きというより、カラフルであるのが普通という感覚なので、位の高い相手と結婚するか、他国に嫁ぐことを無意識に目指します)
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