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【11a】下の口

カーヴルグス・ヴィクト・アリリオさまの素晴らしいところは、たくさんある。 たとえば、矢が効かない。 死角から放たれた矢を切り捨てたり、手でつかんでへし折ったり、他人を盾にしてみたりと、とっさの判断で無効化できる。 勘がいいという言葉では説明できないが、異能ではない。 アリリオさまの父親が同じことをしたのなら、数秒後を視たから対処したということになるが、アリリオさまの場合は努力だ。 どれだけ鍛錬を積んだらその境地に達するのか、考えただけでも頭が下がる。実戦経験が誰よりもある我が国の最高戦力だ。 異能の発現がないため、並大抵ではない努力によって、異能を持つ人間並みの動きをするのが英雄であるアリリオさま。 神が人間に授けた異能は奇跡の力だ。 人間の身で異能を持たずして、異能を持っている人間と同じ動きをするなら、アリリオさまは神の領域に達していると言えるかもしれないが、それを言うといろんな宗教から睨まれるので、黙っている。 誰かと比べるまでもなく、アリリオさまは凄くて強いと思う。 その強さの代償として、人としてやってはならないことを学び損ねてしまっている。普通なら躊躇することを平然とやってのける、クソ野郎だからこそ、国内最高戦力になりえたのか。国内最高戦力だからこそ、クソ野郎になってしまったのか。 俺はアリリオさまを褒めたい。褒めちぎりたい。 だって、自分の旦那様だ。 俺は立場上、別居はあっても離縁はないはずの位置にいるので、伴侶がクズの最低な人格破綻者より、お互いを尊重し合える相手がいい。 もちろん、夢を見たい年頃なので恋愛をしてみたいが、友愛だって構わない。家族愛だって立派な愛なので、いろんな形の愛があっていい。 離縁しないのだから、愛情を求める先はアリリオさまになる。魔獣の討伐のために東へ西へと出張するもとい王家にこき使われている最高戦力の英雄さま。 青春時代はないし、友人と呼べるのはきっと乳兄弟の執事だけ。 対人スキルがゼロで、思いやりに欠けていて、常識がなくても、戦闘能力に極振りしたせいだと納得してる。 アリリオさまが自分で選択した結果とはいえ、俺を初めとして国民はみんなが助けられているのは事実なので、クソ野郎な言動には目を瞑るべきだと思う。 このぐらいは忍耐でも何でもないと嫌味や罵倒を聞き流して、暮らしていたが、どういうことなのか問いただしたくなることが月に一度ぐらいはやってくる。 いいや、嘘だ。 一日に一度は思う。 何を言っているのか、何をしているのか、さっぱりわからない。 俺を思ってくれているような、全く関係ないような、大切にされているような、虐げられているとしか思えない、そんな状況に気を抜くとなっている。 好感度が上がったから、良い調子だ、このまま頑張ろうって思ってみたところで、最終的に俺はすごく嫌われているのではないのかと恐ろしい発想になる。 現在、俺のお腹はパンパンだ。 昼食をいっぱい食べさせてもらったので、お腹がいっぱいという意味じゃない。下の口から、いっぱい食べさせてもらったけれど、そういうことじゃない。 そもそも、下に口などない。

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