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【12a】鍵付きパンツ
お腹をさすると皮膚越しにラチリンのゴツゴツとした表面に触れる。
俺は、ベッドの上で、ゆるい服を着て大きくなったお腹を持て余している。
妊娠した女性はこうなるかもしれない。
たしかに俺も妊娠しているが、異能によって、俺のお腹は膨らんだりしない。
男なので、子宮はないし、子宮的な器官が作られるわけでもない。
妊娠中のエビータ一族は、腹を裂かれても、子供に傷一つつかなかったと言われている。これが、安産というエビータの異能のすごさの一部だ。
危険がなく子供を産むという|結果《未来》が異能によって約束されている。
子宮の位置を攻撃しても、子供に傷をつけられないだけではなく、人によって、妊娠中は刃物がそもそも届かなくなったともいう。
刃物以外で攻撃されても、不思議と弾かれる。
殺意が乗った攻撃は完全に無効化できると伝えられている。
ただ、この話には残酷な続きが待っている。
妊娠中のエビータを刃物が届かない無敵の盾として使われた。
このことはエビータの記録の中には残っているが、一般的な書籍に記述はない。
いくつかの条件で無敵状態を作れる異能があるので、非道な手段で人間の盾にされた一族がいる。エビータの事例はその中に紛れ込ませて、隠している。
ともかく、俺は主治医の異能が判定しているように妊娠状態で子供がいる。
ただし、子供がお腹の中にいるとも限らない。
異能によっては、異空間を行き来することで、疑似的な空間跳躍を可能にする一族がいる。
彼らのように俺も胎内の一部だけ異空間や亜空間と繋がり合っているのだろう。お腹が膨らんでいなくても、子供が成長しているのだから、異能によって、なんらかの奇跡が起きている。
子宮の位置を傷つけても、子供に傷がつかなかったエビータのことを考えれば、十分にあり得る可能性だ。
一般的な妊婦のようにお腹が大きくなるはずのない俺が、パンパンである。お腹の皮膚が引っ張られて、ビックリしている。
ベッドの上にいるものの、完全に寝転がったり、寝返りを打つと口から昼食が出てきそうなので、上半身を起こして本を読んでいる。
ベッドの上で、介護よろしくアリリオさまにあーんと言いながら昼食を摂ったと言うと如何にも思い描いたラブラブさだが、現実は悲しい。
ラチリンでお腹がパンパンになった俺は動くことが出来なかったので、ご飯をベッドに運んでもらったのだ。
お互いに別々で昼食を摂るという誰もが考える冴えた解決をせずに俺の口内をスプーンで攻撃するアリリオさま。
食べさせようとする量の多さのせいで、飲み込めず、口の周りが汚れたり、咳こんだりする。
この自分本位な食べさせ方で俺は、朝に見た夢の介護人がアリリオさまだと尚更、確信した。
自分で食べると訴えても「そんな緩慢な動きでは昼食が夕食になる」と拒絶される。俺の動きがゆっくりなのは、パンパンになっているお腹に刺激を与えないためだ。
大量のラチリンに体が悲鳴を上げて、出来るなら「ひぐぅぅ」と汚い声をあげて、体外に排出したくなる。
だが、俺の下着は貞操帯に変えられていた。
簡単に言えば、鍵付きパンツだ。
ラチリンにさようならを言うことも出来ず、お腹に居座られている。
どうしてこうなった。
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