65 / 113
【14a】ぎゃふん
産卵とは、動物が卵を産む行為のことをいうが、産卵プレイとは、夫婦ならば、必ずするべきお約束のプレイである。
人間は卵生ではないが、卵生であると仮定すると疑似的な出産プレイともいえる。
出産プレイは別ページにて説明あり。
食べ物、あるいは異物を妻の胎内に大量に入れ、夫は身悶える妻を眺めることで興奮を高める。
楽しむポイントはいくつかある。
別ページに詳細がある、拡張、羞恥、肉体変化などの項目を同時に満たせて、非常に手軽な方法であるといえる。
膣ではなく、肛門を使用する場合は、疑似的な出産ではなく疑似的な排泄に変わる。
排泄については、分類が細かく分けられているため別ページを確認されたし。
つらい思いをする人間を隣で支える場合、二人には他の誰も入り込めない絆が生まれる。
限界を超えて、産卵プレイに備える妻を褒めて励ます夫を愛さない妻はいない。
人間の体は丈夫なので、深く考えず、まずはチャレンジ。
ちなみに具合が悪くなった場合、すぐに医師に相談すること。
言い難いことを口にすることは快感である。
夫を医師として、異物を除去してもらうお医者さんごっこへ移行するのもまた乙なものだ。
お医者さんごっこについては、別ページを参照して、楽しんでもらいたい。
具体例は、以下になる。
◆◆◆
頭を抱えていても仕方がない。
そうは思うが、頭を抱えたい。
ベッドの上でうなっている俺を心配してくれているリーとライの気配を感じて、思わず「ちょっと、本を投げていい?」と彼女たちのほうへ本を投げてしまう。
本当は壁に向かって投げつけたい。
だが、できない。今までのエビータが次代のために書き記した大切な本だ。俺の一存で、傷つけるなんてあっていいはずがない。
それでも、お前ふざけんなよと本に対して言いたい。
妄想にしても馬鹿にしている。
出産や愛や夜の営みの全てを台無しにされた気がする。
プレイってなんだよと、リーとライが居なければ叫んでいた。
「奥様、こちらのご本は」
「あのさ、悪いんだけど、ほんとうに、悪いと思っているんだけど、その本の中身を、チラッと読んでもらえるかな。それ、普通じゃないよね? 絶対におかしなこと書いてるよね? そーだと言ってよ、リー、ライ」
混乱して、意味不明な俺の言葉を二人は無言で受け止めてくれた。
パラパラと紙をめくる独特の音が室内に響いて、俺は我に返った。
ものすごい、セクハラとパワハラをしている。
俺の立場で頼んだら、当たり前だが二人は断れない。
変態本を読むことを強要するような人間に仕えたくはないだろう。
せっかく、俺専用の侍女がついてくれたのに配置換えを希望されてしまうかもしれない。こんな人のお世話は嫌ですと言われたら、自業自得でもショックだ。
「奥様、申し訳ありません」
「い、いや、……あの、ごめん。ごめんね。わざとじゃないんだ。混乱してて、いつもは、眠っちゃって、全然読めないのに今日は読めちゃったから――」
そう言えば、今まで何度も目を通していた本だが、内容は覚えていない。安眠導入剤あつかいしていて、疑問に思っていなかった。
「こちらのご本は、我々では読むことが敵いません」
「あ、ごめん。旧文字を含んでるから――」
「書式の問題ではなく、我々には読む権利が与えられておりません」
読む権利というのは、本を読む際によく耳にする言葉だ。
貴族は読めるが、庶民は読めない。
王族は読めるが、王族以外は読めない。
年齢制限、性別の制限、あるいは、読む場所の制限などが本には施されている。
リーとライが読む権利がないというなら、『フェティシズム大事典~例題も添えて~』は、エビータの人間以外は読めないように処置を施されていたということになる。
アリリオさまは、中身を読んだような発言をしていたが、あれはブラフであり、俺の動揺を誘うためのフェイク。
よかった。余計なことは口にしていないので、この本の内容などは、バレていないはずだ。
「旦那様はお読みになられたかもしれませんが、こういう術式は気持ちを考慮しませんので、使用人を家族とみなしません」
「え? アリリオさまは、読まれている? それは確定?」
一安心してからの、ちゃぶ台返し。
ちゃぶ台が何かは知らないが、勇者語録では、心の平穏が乱されたら使う言葉だとされている。
「前書きという場所は、目を通すことが出来るようになっておりまして――」
リーの言葉に思いきり咳こむ。
読めなくて良かったと思ったが、どんな本を読ませようとしたのかバレてしまった。
やめて、やだ、捨てないでと縋りついたら許してくれるだろうか。
「――こちらは、性行為の指南書ですね」
「ぎゃふん」
アリリオさまをぎゃふんと言わせたいのであって、俺が言いたいわけではない。
恥ずかしさで不貞寝したくなるが、『フェティシズム大事典~例題も添えて~』に言わせれば、これもまた快楽の導入に必要不可欠な羞恥なのだろうか。
ともだちにシェアしよう!