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【19a】ありえない

◇◇◇◆◆◆ 頬を叩かれて、目覚める。 今日で何度目か分からない激怒しているアリリオさまの顔。 美しさは息子と同系統のはずなのに雰囲気が違い過ぎる。 勇者語録にある鬼のような形相というのは、この顔かもしれない。 破れてなくなった寝取られの項目を指でなぞっていたから、悪夢はあの内容だったのだろうか。 アリリオさまのことを指をさして「息子に寝取られてやんの」と笑いたいところだが、俺が当事者なので、冗談にならない。 そもそも、俺は悪夢の中でも寝取られてはいなかった。 俺なので当然だ。とはいえ、続きは分からない。俺とは関係のない世界だ。 自分のことでも他人事のように感じる。 俺は絶賛アリリオさまを攻略中であり、諦めた俺とは違う。 だから、あの世界の俺がどんな選択をするのか、気になった。 これが野次馬根性とういうやつか。 「これでも飲め」 渡されたものを素直に飲もうとして、自分の状況を思い出す。 これは最悪の罠だ。 「尿意が……えっと、この貞操帯は、外してくださるんですよね?」 そうじゃないと困るという意思を言葉に乗せるが、伝わらない。 アリリオさまは、なぜ外さなければいけないのかという顔で、「貴様の態度次第だ」と言った。 俺のことをトイレに行かせない気だ。 ムカッとしていたら、本が別のページを開いた。 項目は「排泄管理」とあった。 おしっこ我慢からの失禁または、大量排尿は男のロマンだから、求められたら一回はやってみるべし、とある。 ほら吹きの大嘘事典なので燃やすべきかもしれない。 男のロマンなら自分でやれ、と思ったが、俺も男だ。 「アリリオさまは、騙されてます! この本は嘘つきです!!」 「何を言っている。それがエビータの作法なのだろう」 「違います! こんな変態的なものを好んでいるのは勇者ぐらいですよ。異世界は刺激物が多いので、見た目のエッチばかりを重視して派手なほうに行くんです」 俺が主に読んでいる本を姉は朝チュンばっかりと馬鹿にした。 だが、それでいい。 姉たちに押し付けられて、いろいろ読んだりもしたが、結局、ギュッと抱きしめ合って、お互いのぬくもりにドキドキしつつ、愛を確かめ合うのがセックスだ。 とくに初夜は、濃厚じゃなくていい。 最初から、濃いものを出されても、ついていけない。 「他国は、年上が手解きをしたりということもありますが、俺たちの国は自分たちで調べるので……だから、ちゃんと正しいやり方が良いかと」 本をバシバシ叩くと初夜のページで止まった。 項目名は読めたが、内容は頭に入ってこない。 説明が読めないということは、俺の初夜は本当に始まっていなかったらしい。 アリリオさまが、興味深そうな顔で熟読している。 嫌悪でも険しい表情ではなく、合点がいったような顔つきだ。 エビータの叡知が名誉挽回してくれるのだろうか。 「なるほど。すこし、借りるぞ」 「どうぞ、……あの、それで、貞操帯は」 「苦しいか」 「はい、ものすっごく! ありえないってぐらいに!」 「入るから問題ないかと思ったが」 「人体は何だかんだで伸びますが、それは平気ってことじゃないです。伸びた後に縮むかもわかりません。ゆるゆるトロトロが理想でも、締め付けが悪くなったらダメではないですか?」 俺の言葉に納得がいったのか、アリリオさまは鍵をくれた。 ちゃんとアリリオさまと会話が出来て、感動してしまう。 俺の要望を無視することのないアリリオさまに笑顔を向けていると「必要な数まで減らしておけ。数は後で私が数えよう」などと言われた。聞こえなかったことにしたい。 「どうしても排泄をしたいなら、すべて出しても構わんが、鏡に映るような体勢で再度挿入するように」 羞恥プレイを覆す気がないということなのか、異常なことを言ってくる。 自分が居なくても俺を辱めたいらしい。

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