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【28a】自然発生
現実に起こっていないことを責めるのは筋違いなので、年配の執事へのアリリオさまの考えは脇に置く。
こっそり、勤務体制に不満はないか聞きに行こう。
「死霊使い とは? 死霊使い は、一定期間が経つと自然発生する存在なんですか?」
息子からの告白に理由があると思っていた。
俺がゾンビになったから、愛情によって人に繋ぎ止めようとしたのだろう。
死んだ恋人の肉体を好き勝手に使われた勇者が、愛の奇跡で呪いの力を断ち切って、恋人たちは幸せになりましたという話がある。
史実では、化け物と化した恋人を守るために世界を敵に回した魔王として残されている。
二人の幸せのために世界を犠牲にしたとも言えるが、彼らは隠居していたのだから触れなければいい。
宗教家は自分の名声を高めるために他者を糾弾する。
神が愛の名のもとに奇跡を許されたというのだから、彼らは聖者として敬愛を抱く対象だ。
彼らを迫害するのは、自分の利益のために他ならない。
そこに、正義はない。
ゾンビは死霊使い と離れると醜く崩れるという説と条件が整えば数日間は生きた死体として歩き回り、力ある者との新たな契約により存在が持続するという説がある。
後者が、愛の奇跡と呼ばれたりする定説を無視した状態保存。
勇者が作り上げたアーティファクトと原理が同じだと聞いたことがある。
俺が持っている、いくつものアーティファクトは、勇者から妻であるエビータやその家族への贈り物だ。
子孫に残すつもりで作ったわけではないかもしれないが、勇者が作った物は、異世界の要素が入るせいか、この世界で劣化しない。
死霊使い になった勇者とエビータが懇意であったと門外不出のエビータの歴史書にあった気がする。
「毒殺されて、死霊使い にさらわれて、そして、エビータが滅んで、息子に助けられたけど、聖騎士に殺される? でも、ビジョーア嬢の息子さん、公爵家の次男くんは、俺が死んでいるという感じでもなく……ゾンビ化することによって不死に?」
言いながらアリリオさまの膝の上で軽く揺れたからか、おでこをぺしぺし叩かれた。
膝の上で動かれたくないなら、膝枕はやめたほうがいい。お互いに話に集中できない。
「全然、状況が分からなくて気になるので、はい、もう一回!」
俺の言葉を無視して、アリリオさまは執事が紙にまとめた内容に目を通す。さびしくなって、頭をガクガク揺らすと床に落とされた。
テーブルにぶつからないよう、ゆっくり落とされた分だけ優しい。
今回は俺が悪い。ソファに座り直すと「何をしている」とアリリオさまが、自分の膝を示す。
俺に膝枕をしなければならい密命を誰かから受けたのか。
そう思う、不自然さがあるが、遠慮したらアリリオさまは口を閉ざしかねない。俺の知りたいことなど何も教えないと、状況を考えずに意地悪をしてきそうだ。
「それで?」
ソファに体を横たえて、アリリオさまの膝を枕にする。
無駄に動かず、見上げる。
「呪術をこの国は認めていない。死霊術に関しても同じだ。存在しないことになっているが、滅ぼさなければならない」
「はい? 死霊使い に恨みが?」
「エビータの安産の定義に、どこまでが含まれるかという議論がある。異能持ちの中で、ではなく、他国で、だ」
他国に嫁いだ親戚は数多い。
異能という、その国にはない力が珍しく思うのも仕方がない。
「噂話は問題ではない。エビータという一族の名が売れれば、行き遅れが出なくて安心するだろう」
うちの妹は最高にかわいいので、心配しないで大丈夫だと以前なら返したところだが、今は「はい」とうなずいて、笑うにとどめる。
俺が家族を大切にしていることをアリリオさまは知っている。
そのことが嬉しくて、悲しくなる。
息子への考え方の違いで俺と対立するのは、アリリオさまは覚悟していた。
同時に、自分が負けることも分かっていたはずだ。
産む意思が硬いなら、アリリオさまは折れるつもりでいた。
そう感じているのは、このまま頼み込めば、もう一回や二回は許してもらえそうだからだ。
アリリオさまに許して貰う必要はないと思えるけれど、言いつけを無視すれば、不眠不休の耐久セックスを仕掛けられてしまう。
両思い甘々イチャラブ生活に必要なのは、嘘や裏切りではない。
誠実に相手を思う気持ちが勝つ。なので、アリリオさまからのお許しを貰った上で気兼ねなく、自分ではない自分がどうなっているのか視たい。
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