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【30a】一から十まで説明しろ
アリリオさまの唐突な意味不明さを、今まで良いほうに解釈しようとして失敗していた。本当は、悪い意味合いだろうと思っていた
でも、そこに愛があるのなら、言葉が足りないだけだ。
「どういう意味ですか?」
以前なら不機嫌さを滲ませないために淡々と口にした問いかけ。
ツンと尖りそうになる口調を抑え込んだために、ケンカを売っていそうな言い方。
そう思われるなら、それでもいいと思っていた。
自分が失礼な言動をしてると俺の態度で理解しろと突き放していたが、アリリオさまには一切伝わらない。
俺が死んでも、俺の気持ちは分からなかったはずだ。
「領をおさめるための仕事は、公爵家の当主として義務だ」
「それ以外の仕事は、趣味だと言いたいんですか?」
「貴様が、そのほうがいいのだろう」
言い難そうなアリリオさま。反応に困る。
頭の動きを制限されているので、執事に教えてくれと目で頼むことも出来ない。ここは下手(したて)に出るべきだ。
「おうちに、アリリオさまが居ないとさびしいです」
さびしいというか、嫌われているのかと思っていた。
俺も俺で、触れあいを削るよう、避けていた部分もある。
だが、必要な仕事とはいえ、あちらこちらに魔獣討伐で家を空けるアリリオさまを思うと、好かれているとは考えられなかった。
「だが、人的な被害が少ないほうがいいのだろう?」
「その通りではありますが、他の人間にも仕事を任せるべきです」
どれだけ優秀であっても自分一人で物事を処理するべきではない。
一人で出来ることなど、たかがしれている。
後進を育てるには早いかもしれないが、アリリオさまの英雄という肩書きから考えれば、構わないはずだ。
次代の英雄を育てるという名目で自分の手足となって動く人間を作り上げる。
子育ての前段階としていい訓練かもしれない。
部下のように子供に接して欲しくないが、部下ともコミュニケーションがとれないようでは、子供とは上手くいかない。
「子供がすぐには大きくならないように、アリリオさまと同じレベルに達する人が出てこなくても、頑張ればいつかそれなりに――」
「そういうことは父の分野だろう」
「そのはずですが、アリリオさまだけで活動されている現状がおかしいと言ってます」
元帥となって、頑張っているにしては息子に仕事を振りすぎだ。
自分が無能だと表明したいのだろうか。
アリリオさまへの対応の酷さが目立つので、義理の父親とはいえ、あまり好きではない。
俺の不機嫌さが伝わっているのか、アリリオさまは、耳に指を入れてきた。
背筋がぞわぞわとしていると「そういう契約だ」と教えられた。
「エビータに対する不穏な情報を教えてもらったり、王家の護衛を借り受けている。あと、私が不在がちになるため、リーやライなどを引き取る理由になる」
どういうことだろう。
一から十まで説明しろとは言わないが、知らないことばかりで、理解が追い付かない。
リーとライが見た目通りに強いという話なのか、まったく関係ないのか。彼女たちは、俺の侍女に選ばれた理由があるのだろうか。
「王家の護衛は無能だということで、いいですか?」
「手は出さず、情報収集を主に頼んでいる」
それで、毒殺されていたら護衛の意味がない気がする。
腑に落ちないが、そこは問題ではない。
「アリリオさまが好きで、魔獣討伐をしていたわけではないということですか? てっきり、父親に良いところを見せよう精神かと」
俺の言葉に不快になるかと思ったが、破顔した。
ビックリしている俺の顔を手で押さえつけて「愚か者め」と笑う。
「なるほど。それで、父に対して喧嘩腰だったわけか。どれだけ命知らずなのかと思っていたが、嫉妬していたとはな」
アリリオさまが自分の父親に好かれようと思っているのは、間違いない。
それに対して、思うところがあったのも事実だ。
こんな風にからかわれるとは思わなかった。
今までずっと直視しないように気をつけてきたアリリオさまの顔を、今はすごく見たい。
手をどけようとしても、外してくれない。
体の振動からすると、笑っているのは間違いない。
執事がいなければ、反撃として股間を握るぐらいする。
いや、よく考えると執事がいても、気にせずやってもいいかもしれない。
「父は私が何をしようと褒める人ではない。魔獣討伐に成功しても、失敗しても、気にするのは、国が破綻しないかどうかだ」
ドライな意見だ。
元帥としては、それでいいかもしれないが、父親として息子にかける言葉はないのだろうか。
あの人からすると、出てこないかもしれない。
これは、アリリオさまの問題ではなく、その父親が問題だ。
アリリオさまの考える父親像が元帥であってもらっては困る。
俺はあんな冷たい父親は嫌だ。
ちょっとぐらいポンコツでも愛嬌があるので、断然、アリリオさまを推す。
言えば何とかなりそうなアリリオさまと義父は違う。
それか、元帥も言葉が足りないだけで、実は話が分かる人なのだろうか。
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