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【33a】死にかけの人間
俺の息子が、俺を助けるために単独行動をしていた中で、ベラドンナの息子は、アリリオさまの手先として動いていた気がする。
俺が視た世界の中で、アリリオさまは後手に回っていた。
執事の弟が味方に付いたぐらいで、上手く俺を殺せるのだろうか。
「俺に飲ませようとした堕胎薬の仕入れ先を聞いていいですか」
「ピネラの弟と貴様の主治医だ。複数そろえて、私が調合した。母体に影響は出ないはずだ」
主治医の温室にアリリオさまが用意した毒草を混ぜたとベラドンナは言っていた。これは、間違いか、解釈違いか。
アリリオさま名義だと思って、誰かから渡された毒草を主治医の温室に植えたのか、アリリオさまの部屋に忍び込んで、調合前の毒草を勝手に手に入れたのか。
「アリリオさま、薬の調合ができるんですか?」
「剣が通らない魔獣には毒がいい。魔獣の肉で宴会をする地域では使えないがな」
「解毒剤は作れないんですか?」
「解毒剤は万能ではない。毒は後遺症が残るものだ」
俺の中にある一つの仮説は、複数の人間から別々に毒を盛られて、体内で混ざり合った毒が仮死状態を引き起こした、というものだが、それだとベラドンナの息子の反応が、腑に落ちない。
湖に沈んだ俺を引き上げて、どうする気だろう。死姦?
「……ビジョーア嬢の相手は?」
「祖父の子だろう。あの女の腹の中の子は、私の従弟になるな」
サラッと認めたが、知っていたのか、推測なのか。
従弟を堕胎薬で殺そうとした件は、深く考えてはいけない。
アリリオさまにとって他人の命は軽すぎる。
「エビータが全滅したらしいことは?」
「いくつかの可能性はあるが、情報が足りないので保留だな。死霊使い が絡むなら、原因はそこか、死霊使い を支援した人間か」
「現状での心当たりは?」
アリリオさまが現在知っている、いくつかの可能性について聞きたいが教えてもらえなかった。言い難いことなのか、俺に知られる前に処理することなのか。
アリリオさまは、黙って俺の頭を撫でるだけだ。
毒による仮死状態でないとするなら、思いつく原因は俺自身だ。
エビータの性質。
安産の異能による、無敵化。
妊娠中のエビータ一族は、腹を裂かれても、子供に傷一つつかなかったと言われている。これが、安産というエビータの異能のすごさの一部だ。
アリリオさまは、死霊使い が俺を実験体にすると言っていた。
俺の異能がどこまで、安産という言葉をカバーするのか知りたかったのかもしれない。
子供を安全に出産するために母体である、俺自身も死なない。
その可能性は十分にある。
ただ、そうなるとものすごく大きな問題が出てくる。
悪夢の中で、俺は出産後に体調を崩して、体が弱っていった。
最終的に自分の管理を自分で出来ないほどになった。
子供を無事に産んだことで、安産はなされた。
異能が俺の体を守ろうとしなくなった。そういう風にもとれる。
どの時点で毒を飲んだのかは、関係ないのかもしれない。
「アリリオさまは、死にかけの人間に欲情できますか?」
「貴様と違って私は普通の性欲しか持たない」
普通の性欲しかない人が、俺を失神するまで責め抜くだろうか。
アリリオさまは、どうやら自分がスケベである自覚がない。
「俺は妊娠したから、死ななかったのかな、と」
安産の異能は、子供を産むという未来を固定している。
そのため子供が生まれなくなる原因を排除してくれる。
母体が傷つけば、子供は安全に生まれない。
安産の異能は、母体を守ることはあっても、俺を守る異能ではない。
子供が生まれた後は、無防備なただの人だ。
普通なら、死にかけの人間は妊娠しない。
妊娠したら、体が消耗して、出産で命を落とす。
子供も流れてしまうかもしれない。
安産の異能がある、俺は違う。
逆に異能によって、子供が生まれるまで守られる。
俺自身の命の炎が消えたとしても、子供がいたらギリギリ延命するのではないのか。
「命を懸けてもバルトの異能で妊娠中まで戻すことはできない。無機物でも、数日前まで戻すとなると疲労して倒れるからな。貴様が妊娠状態であるなら、私があたらしく種づけしたと考えるべきか」
考えながら俺のつむじを押してくるのをやめて欲しい。
頭が変形してしまう。痛いというより怖い。
俺の頭は熟した果物だと思って、触れてもらいたい。
力をこめられたら、跡が残りそうだ。
「仮死状態になったのは、妊娠が間に合わなくて半端な状態になったのか、子供が安全に育つ環境ではないと異能が判断したからか」
アリリオさまの推測はたぶん正しい。
俺は、直感的に後者だと感じた。
生きることを諦めたから、死んだのだと感じていた。
逆に生きたいと思うことがあったなら、死んだりしなかった。
諦めなかった俺が、ここに居るからこそ、そう思う。
神は残酷ではない。
生きたいという祈りが届けば奇跡は起こる。
墓からあばかれ、死霊使い の手に渡った俺が息子と暮らすまでの間に何があったのか。
俺はやっぱり、俺ではない俺のことが知りたい。
野次馬根性というより、胸の中のつっかえを取り除きたい。
あの世界のアリリオさまも俺を愛してくれているなら、空回りし続けて、痛ましい。
「先程の、死にかけの人間に欲情するのか……だったか、そういった趣味はないが、助けられる手があるなら、なんだって試すに決まっている。何もせずに嘆くのは愚か者のすることだ」
両親に認められなくても、努力をし続けて英雄の称号を得た人の言葉は重い。
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エビータの妊娠中の無敵化については「【12a】鍵付きパンツ」で話題に出ています。
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