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【7b】何をどうされたいのか
アリリオさまは、意外にもからかうことなく、俺のしゃっくりを聞かなかったことにしてくれた。優しい。
分かっているようで、分かっていなかったものが多い。
俺は深く考える前にレッテル貼りをする。
自分が傷つかなくて済むよう、期待しないよう、悩みすぎないよう、のめり込まないよう、分かったふりをする。事実を確認しない。
思考停止は誤魔化しで、真実から目をそらし続ける卑怯な行動だ。
やりかたが正しいかはともかくとして、アリリオさまは俺を知ろうとしていた。
全てではなくとも、俺を理解してくれていた。
優しく触れていく指先。俺を追い詰め過ぎない愛撫。
ラチリンが居座っていた俺の穴は、トロトロの蜜壺と表現できるぐらいぬちゃぬちゃだ。
ラチリンを探すように指でかき混ぜられた。
気持ちが良かったし、声をおさえたかったので、すでに外に出しているとは言わなかった。
偶然とはいえ、アリリオさまはレベルが上がった。
今まで、指を出し入れする動きは単調だった。
ほぐすというよりも自分のちんこが入るかどうか、俺の穴の耐久性を見ているような触れかただった。
教えられた手順をなぞっているような、作業感。
今日は、ムードを壊すことなく、指の角度を変え、いろんな刺激をしてくれる。
前立腺を指で刺激されるよりも、俺を労わる指先に興奮していた。
自分勝手な振る舞いを完全に脇に置いて、俺の中にある理想を演じてくれている。
セックスは入れて出して終わりじゃない。
俺は愛を咀嚼したい。
愛情を浴びて、幸せなのだと実感したい。
時間をかけ、面倒な工程を踏むことが美徳とは言わないが、最初の一度ぐらいは夢見たい。
大切にされていることを深く実感したい。
「すでに出していたのか?」
俺の中でラチリンが溶けたわけではない。
腰を持ち上げて足を開くと香りがすごい。
そこに安心する。
変な匂いや変な音があるのではないかと考えると集中できない。
ラチリンの甘い香りのおかげで、俺が誤射したことはバレていないはずだ。
アリリオさまの指先と真剣な顔が良すぎた。
この人が俺の旦那さまなのだと思うと改めて興奮してしまう。
俺の反応など無視していた今までとは違う。
感じすぎてつらくなると手を止めて待ってくれる。
乳首も引っ張ったり、つねったりせずに服の上から優しく撫でるだけだった。
物足りなさを感じる触りかたが、逆におしりをうずかせる。
以前までの「早く終わって欲しいから、挿入れて」ではない。
アリリオさまと繋がりたいから、気持ちよくなりたいから、挿入して欲しくなっている。
快感を感じる器官は、性器だけじゃない。
性感帯は、からだ全部だと本にあった。
心も同じだ。
脳や心臓だけが心じゃない。からだ全部が心だ。
手を握りあって、ゆっくりとした挿入。
俺の状態をよく観察するよう、正常位。
手で軽く、顔を隠してしまう。無理に手を外すことがないアリリオさまに驚いていると目が合った。
指の間から俺が見ていることを分かっているから、笑っている。
快楽からくる愉悦ではない。
支配欲からくる充実感でもない。
「勇者語録にある、頭隠して尻隠さずというやつか」
思い浮かんだ言葉に自然と口元がほころんだらしい。
アリリオさまの自然な姿に涙腺がゆるむ。
頭をゆっくり撫でられると、俺の手はシーツを掴んだ。
顔の前から手をどけた俺をアリリオさまは満足そうに見る。
「ゆっくりじっくりねっとりと」
「……は、い?」
「そういうのが、好みか」
俺の好みを聞きたがっていると、以前だったら受け取らなかった。
続く罵倒を警戒して、隙を見せないように必要最低限の言葉で会話を終わらせていた。
「あ、……りおに、そうされるのが、好み」
照れくさくなって、笑って、額の汗をぬぐう仕草をする。
アリリオさまは誤魔化されてくれなかった。
「何をどうされたいのか、ちゃんと言うと良い――」
俺を抱きしめるように近づくことで、挿入が深くなる。
そして、そのまま耳元で名前を囁かれた。
すこしアレンジされた発音がくすぐったい。
巻き舌になる発音が好きだと言ったのをアリリオさまは覚えている。
気のせいだとしても、自分の名前が格好良く感じる。
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