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【8b】空から槍が降る
多幸感に包まれて、夢心地だった俺に「まだ全て入りきっていない」と声が聞こえたが、無視。
あいづちを打ったが最後、あひぃで、ふぐぅな感じになる。
分かりきっているので、聞こえないふりがいい。
アリリオさまは、俺の乳首をつねってきた。
「そう、いうことを……しないという、やくそく」
「していない」
「……でも、そういう雰囲気で、アリリオさまは、了承ひれっ」
反対側の乳首がつねられた。
以前なら怒られたと怯えるところだが、これは拗ねている。
俺の態度がちょっと面白くないから、軽くこづいている。
そのぐらいの気持ちで、人の乳首を攻撃する。
アリリオさまからすれば、俺の痛みやアフターケアなど知ったことじゃない。
腫れるから乱暴に触らないで欲しい。
俺の訴えを聞いてくれる時間は終わったのだろうか。
「アリリオさまだって、股間に歯を立てられて痛かったでしょう。俺の乳首も同じです。アリリオさまがいじり続けるから、性器みたいなもんなんです。ちくび、だいじにっ!」
「それで?」
イラっとしているアリリオさまの空気に押し負けそうになる。
乳首を労わって欲しいという気持ちが伝わったなら、それ以上の望みはない。
あたたかく、甘やかな雰囲気が、急に殺伐としたものになった。
アリリオさまは、秋の空のように変わりやすいお心をお持ちだ。
「――アリリオさまが、俺に深く挿入して、ズコズコしたい気持ちもわかります。今日はそういう、やり方はしないと」
「約束はしていないが、そういうつもりではいる」
「じゃあなんだって――急にそんな、不満そうな」
くちびるを軽く噛まれた。挿入が深くなり、入っている感が増すが、これでもまだ全部ではないのだろう。奥までガンガン入れられた覚えがあるので、わかる。もう、いっぱいいっぱいですと体が訴えていても、さらにその先がある。
「入れれば気持ちいいわけではない」
アリリオさまが、ノーテクニックを自覚した。
まさかの事態だ。
これは、空から槍が降るのだろうか。
屋根を突き破って俺がくし刺しにされる風景を想像して震える。
アリリオさまが目を細める。
俺がガクガク震えているのがお好きであるらしい。
男とは勝手だ。自分のちんこが気持ちよければ、それでいい。
「私とて、同じだ。入れただけで気持ちよくなるものではない」
散々、ズコバコ俺を犯しておきながら、気持ち良くなかったとか、何なんだ。このタイミングで言うのも最低すぎる。
夢から覚めるように思考が冷える。
事実だとしても、言って良い事と悪い事がある。
先程まで幸せだったせいで、反動が強すぎて吐きそうだ。
「気持ちよさを考えて、奥に入れたいわけではない」
「そう、なんです、か?」
「ラチリンが入った場所まで入れるのが、それほど難しいか」
自分でラチリンを俺に限界いっぱいまで入れておいて、嫉妬。
馬鹿か、てめーと言いたいところだが、ときめく俺がいる。
デリカシーのない配慮ゼロ野郎だと罵りたかった気持ちが消える。
頭がおかしい自己中心的な言い分も、俺のことを好きで独占したいのだと思えば、嬉しいと喜んでしまえる。
今までとの落差や悪夢があるので、俺は浮かれてしまえる。
理想と少し違う現実が幸福な未来というやつだ。
それなら、アリリオさまのちょっとした言動ぐらい目を瞑るべきだ。
何も言い返さずに黙り込んでいた以前までとは違う。
俺は自分が愛されていることを分かっている。
子供を産むための穴ぐらいのあつかいだと思っていた。
そうではなく、俺を俺として見た上で、求められている。
奥までどうぞと言うしかない。
「そんな、おくが、いいですか?」
「貴様が、そういう人間だろ」
アリリオさまの親指が俺のくちびるをなぞったかと思うと口に入ってきた。はっ、はっ、と息が弾む。
「奥の奥まで満たされたい、だったか。本の内容を朗読していたな」
本の内容は、アリリオさまへのリクエストではない。
自分に欠けているのはこれなのかもしれないと読みながら、文章を口にしてしまうことはあった。
精神的な意味合いだとしても、聞かれているのは恥ずかしい。
「それならそれで、俺へのフォローが手薄ではありませんか」
「もっと分かりやすく言ってみろ」
俺が心の中に別の言葉を用意していたのを見透かしたようなアリリオさまに悔しくなる。
嫌われるかもしれないと怯えずに話ができる日を待っていた。
惨めさとセットではない悔しさは、甘い。
妹から貰うちょっと手厳しい言葉と同じで、尾を引かない。
「俺のこと、もっと構ってくれていいんですよ?」
構えと命令口調にすべきか悩んだが、そこまで大胆にはなれない。
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次話、アリリオ視点。
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