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〔究b〕下半身への訓練

九=究 アリリオ視点は2話なので以前のような独立した数え方をしません。 ----------------------------------------------------- 事前に熟読した『エビータから初夜に対するお願い』と身体中にくちづけを落としながら聞き取りをした結果、分かったのは「前後不覚にはならない」という強い意志だ。 今回の目的は彼の精神的な脱処女である。 いつまで経っても初々しさが残るのは、かわいい部分だと思うが、彼からすると半人前であると突き付けられるようで嫌だったのだろう。 口では、激しくないほうがいいと言いつつも体は動いて欲しそうに揺れている。 今まで、これで騙されていた。 いくつもの術式を組み込んだナイトウェアを贈っていてよかった。 服が透明になっているときは、触っていい時。 服が赤いグラデーションのときは、手を止めたほうがいい時。 とくに、赤いグラデーションどころか、花柄の模様に変わっているときは、完全に動きを止めなければならない。 体を見ていると、挿入を求めて物欲しそうに見えるが、花柄になっていたので何もせず、彼を見つめる。 すると、昼でも滅多に見れない微笑みが見れた。 崖から落ちそうになっていたのを助けたときや土砂崩れに巻き込まれて生き埋めになっていたのを掘り返したときの安心した顔と似ている。 彼にとって、今の時間は生きるか死ぬかというほど重要だということだ。 だからこそ本の中に『エビータから初夜に対するお願い』なんていうページがあった。 服の移り変わる色は彼の心そのままだ。 体が強い刺激を求めて私を誘ってきても、処女性を捨てきれていない初心な気持ちは待ったをかける。 多少、拷問めいたお預け状態も下半身への訓練だと思えば耐えられる。 彼から受けた痛みは八割は抜けているが、勃起率も八割だ。 これでは彼が満足いく夜にならない。 そう思ったので、挿入まで時間をかけるのは、私自身のためにもなった。 体が火照って力が抜けた彼は私を舌足らずに愛称で呼ぶ。 これが聞きたくて責め抜いている部分もあるが、すぐに正気づいて呼び方を戻してしまう。 さっさと挿入して意識を散らしてしまおうかと思ったが、こらえる。彼といて、我慢を強いられるのは今に始まったことではない。 こちらからの苦情は伝えるべきだと思ったので、乳首をつねった。 胸への刺激は指の腹で転がすように触れるのはよくて、爪を立てたり、つまむのは嫌だという。 嫌がるわりに気持ちよさそうに体は反応している。 彼の男性器も撫でるのはよくても、握りこむと嫌がるので、乳首と同様に今回は控えめに触れることにする。 それとも、強めに触れるのは、今ではないというだけかもしれない。 彼はどんなときでも自分のペースを維持したがる。 急いでいるときでもゆっくり走るし、時間をかけて味わいながらお茶を飲んだり食事をする。自分は自分でやっているので、お先にどうぞと素っ気なくもとれることを言い出す。 フォローが手薄だと彼は私に言う。 そんなことはないと彼が一番知っているはずだ。 「もっと分かりやすく言ってみろ」 具体的な望みを彼が口にすることは少ない。 人に伝える力がないわけではない。 言葉にしなくても分かって欲しいとでも思っているのかもしれない。 時折、私を待つように黙ることがある。 「俺のこと、もっと構ってくれていいんですよ?」 言葉にされるまでもなく、知っていたことだ。 それなのに初めて聞いた気持ちになる。 視線や空気などではなく、彼が言葉として私を求めることが少ないのかもしれない。 だから、彼が好む果物に対して苛立ってしまう。 彼に欲しがられて、彼を満たしている。 それが人ではなく果物だとしても不快だ。 私が与えたものだという前提で、彼が喜んでいると知っていても複雑な気分になる。 「構うか――執務室にいるか?」 鏡でお互いの姿を見ているだけでは、足りないらしい。 領地経営を手伝わせてしまうと批難の的になったり、逆恨みをされたりして彼を疲れさせるだろう。 私に友好的な態度を示す貴族は、彼に対して攻撃的であることが多い。 嫌味ったらしく、侮辱的。 いちいち罰していてはキリがないほどだが、彼はひとつひとつに落ち込む人間でもあった。 私が先んじて口にすると聞き流す。 これは、私からの言葉は罵倒でも嬉しいからだろう。 「おしごと、させる予定も、ないのに、ですか?」 「本の中にオブジェという項目があった」 彼はすぐに理解したのか「置き物になっていろって……えぇ、そんなぁ」とつぶやいた。 ラチリンで腹いっぱいにしていた彼をずっと見つめていることが出来なかった。鏡で見ていたが、空気感はその場に居なければ得られない。 身悶える彼を見つめながらの仕事は楽しいに決まっている。 「仕事にならないようなら、力を貸してもらおう」 「俺がアリリオさまの仕事を手伝うためにアリリオさまの仕事を妨害するのは、本末転倒というものでは?」 「難しく考えることはない。一緒にいる時間を増やしたいのだろ」 頭を撫でると肯定するように彼のナカが動く。 体はいつも素直だ。 完全に彼と一つになる。苦しそうに彼は息を吐く。 事前に息が整うまで動かないで欲しいと言われていたので、待つ。 彼を押しつぶしそうになるので、横向きになる。 一瞬、抜けてしまいそうになったが、彼の締め付けが強いので問題なかった。 正常位よりも密着感が高く、おもしろい。 今まで、彼の顔を見続けることばかり考えて、挿入する角度や体勢など考えていなかった。 彼の呼吸が、体全体で感じられる。 いつもは、大きく乱れさせることで感じていたものだ。 腰を動かしたい欲求はあるが、下手に動くと抜けてしまう。 その上、動かなくても気持ちがいい。 回復して間もない性器には、緩やかな刺激がちょうどいい。 彼の中は連日の行為が嘘のように固く閉ざされていることが多かった。今日は、昼前の行為やラチリンを入れ続けたせいか、やわらかくトロけている。 ラチリン効果だと思うと微妙な気持ちになる。 いつか、彼に挿入したまま執務をしよう。 ラチリンが彼の中に居座っていた時間を考えれば、私もそのぐらいの無茶をするべきだ。 「……はっ、んん、……す、ごく」 「気持ちがいい、か?」 彼は何度も頷いた。 私の手を握って、息を吐きだす。 押しつぶしたり、叩きつけるような、そんな動きを彼が求めていると思っていたが、そればかりでは能がないということだ。 「どう、気持ちいい? いつもと何が違う?」 違いはいくらでもあるが、聞いてみたくなった。 彼は蕩けきった顔をしている自覚がない。 「おなか、が、じわじわあったかい感じ、がします。あと……ぎゅっと、だきしめられ、るの、すき」 力を籠めようとしたら「いま、の! これが、すきです」と言われた。抱きしめているというより、触れあっている程度だが、彼にはこれがいいらしい。 「じぶんの、ちからが強い、自覚をもってください」 私の手を握りながら言う。まさか、全力で握っているのだろうか。 彼が自分の非力さを主張するのは今に始まったことではない。 私に届いていないと思ったので、自分が弱いのではなく私が強いと言い始めた。 腰は動かさず、力を十分に加減して彼の乳首に触れる。 警戒したように肩が跳ねたので、胸を揉むように手のひらを使う。 彼は細いが、骨っぽいわけではない。 女性らしさはないが、食べて動かなければ体に脂肪は乗る。 「……んっ、なんだか」 気持ちがいいのだろうと思ったが「変な気分」と彼は笑う。 くすぐったさがあるらしい。 手を取って、指先にキスをすると「はふぅ」とおもしろい声が聞こえた。 彼は足の指や手の指への刺激に弱い。 あるいは、私が今まであまり触れなかったので敏感なのだろうか。 腰を動かさなくとも彼のナカが、いやらしく絡みついてくる。 いつもなら、もっと強い刺激をくれという合図だと思って、奥を責めたてるタイミングだが、服が花柄からハートマークに変わった。 声を殺そうと息を詰めるので、口の中に指を入れて、舌を遊ぶ。 彼の歯は私を傷つけない。 ただ、眉を下げて「へんな、声、でちゃうか、ら……あんまりイジメないでください」と言われた。 すがるような表情に変な声を上げさせたくなる。 彼は頼み事をするのが下手だ。私でなければ、力任せに押さえつけて犯し続けただろう。 それが望まれている気さえする。 どれだけ、こちらが慎重に動いているのか彼は分かっていない。

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