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【11b】激しいのがお好き
◆◆◆◇◇◇
「さあ、きみの復讐を始めようか。手始めにエビータの女たち。うん、そうだね。彼女たちは、誰のために存在するのか分かっていないのさ。きみに続く道でしかない分際で、きみを虐げ、玩具にして遊んでいたんだろう。そんなこと、許しちゃいけない。彼女たちは自分が選ばれた存在であると思い込むことで、不自由な自分から目をそらしていたんだ。うん? ああ、そうだね。きみは不自由ではない。ただ一人の相手に思いを捧げることを当たり前だと思っている。それこそが、きみがエビータの中のエビータである証拠だね」
◇◇◇◆◆◆
目が覚めて、顔を上げる。アリリオさまが俺を見下ろしていた。
理想よりも甘ったるい幸せな時間を過ごしたにしては、目覚めが最悪だった。アリリオさまの指先が俺の頬を撫でる。
汗をかいていたらしい。
とっさに、アリリオさまの手を握る。
「よくわからない、夢を見ましたが――俺の意思では」
「そうであろうな」
俺を責めるつもりがないとアイスブルーの瞳は言うが、以前なら信じられずに後ろめたさを覚えたはずだ。
アリリオさまの俺への触れかたも変わったが、俺の感じかたも変わった。良い方向に変化している。
「今日、何をするのか決めたな」
質問の意図はいつも通りに分かり難い。
軽く頭を動かすことで肯定を告げる。
「決めたことに対しての警告か、回答だ」
「いまの、夢が?」
身動きの出来ない俺に対して誰かが語りかけてきた。
一方的な言い分は気持ちが悪かった。
「今の気分は?」
「夢のせいで最悪だと思いましたが、アリリオさまのおかげで、そうでもないです」
気絶させられたわけではないので、体力が残っている。
王城に向かうことぐらいわけないだろう。
アリリオさまが気持ちよさそうにしている姿を思い出して、赤面する。俺がこの寝起きも完璧に美しいアリリオさまを乱れさせたのだ。色気が飽和したような、色っぽさの権化のような、そんなアリリオさまと一夜を共にした。
一夜どころか、これからも一緒に居るのだ。
俺は自分の理想や幸せを諦め続けなくていい。
欲しいものを欲しいのだと、口にするだけの覚悟は出来ている。
「何を笑っている」
指で軽くおでこを突かれた。
いつもなら、脳震盪を起してまともに返事が出来なくなるが、軽いじゃれ合いなので問題ない。
アリリオさまは自分の力が強いことを理解してくれたらしい。
「朝に気だるい目覚めではないのが、いいですね」
嫌味ではない。抱き潰された朝は、起きるのが億劫になる。鍛え抜かれた英雄さまに朝食の時間がズレると怒られるが、俺のせいではないと聞き流していた。
今にして思えば、俺と朝ご飯を食べたいとアリリオさまは考えてくれていて、俺が起きるまで待っていてくれた。
起きられない理由がアリリオさま自身だから、俺に不機嫌さをぶつけてもらいたくなかったが、アリリオさまも多忙だ。
俺のせいで予定が押してしまえば苛立ちもする。
先に食べればいいと何度か伝えたが、聞き入れてもらえなかった。
よくよく考えれば、激しいセックスで翌日に体調を崩していますとハッキリ言っておけば良かった。
子供ができる前にそれを言えば、セックスレスに陥る気がしていた。役立たずの烙印が捺されるのだって、嫌だった。
俺に言えたのは、体力がないので性行為は短時間で済ませたいとか、果てるのは一度ぐらいが限度とか、体が弱いので加減してくれと言った、間接的な言葉ばかりだ。
今はどんなお願いをしても変なことにならないと分かる。
「昨日の夜ぐらいの感じなら、朝に響きませんね」
「なるほど。今後は午前中、ずっと寝ているか」
「そうはならんだろ」
アリリオさまは、激しいのがお好き。
思わずこぼれた俺のツッコミに、アリリオさまは綺麗な微笑みを浮かべた。
もしかして、本心ではなく冗談だったのか。
分かり難いというより、分かっていても普通ならツッコミを入れられない。
冗談のつもりだったら、俺が困ったら不機嫌になる理由もわかる。
アリリオさまにユーモアのセンスはないが、俺も俺で余裕がなかった。
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