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【12b】殺された理由
触れてくる指先が優しい。物理的に今までが強すぎたこともあるが、俺を嫌ったり、俺に関心がないから、こういう触れかたなのだろうと思っていた。
力加減を指導したら、ちゃんと従ってくれた。
こんなことでいいのかと自分の悩みに馬鹿馬鹿しくなる一方で、気に病んでいるものこそ、目をそらしていたのだと知る。
悪夢の中で、アリリオさまが体が壊れていった俺の介助をしていたと感じたからこそ、力加減に対して何度もリクエストできた。
分からない人に分かってもらうのは、根気がいる。
ベッドの中で痛いからちんこに触るなと言っても無視されていたが、怖いから手を握っていてと言えばいい。
ちんこの安全を確保するために手段は選んでいられない。
アリリオさまの手が俺のちんこを破壊する気がなくとも、万が一が怖すぎる。乳首には優しくなってくれたので、いつかはちんこにも優しくなってくれるはずだ。
「王城へ行こうと思います」
「探りを入れたいのか?」
「それもありますが、個人的な用事です」
何があるのか聞きたそうなアリリオさま。着いて行くか、どうするか考えているようだ。
着いてこられると話が面倒になる。
アリリオさまは馬鹿正直に王子殿下三人を集めて、おかしなことをしていないか聞きそうだ。
「懐妊の報告をしておりませんので」
「父にか――そうか、それは必要なことだな」
「予定が合うなら夕食を三人で、と思っております」
気になるようなら仕事を終えたら合流してくださいという意味だが、アリリオさまの表情が曇った。
「貴様はなぜすぐ国王陛下を誘うのか……」
「違います! アリリオさまを誘っています」
これも冗談だったのか「そうか」と笑顔を返された。
国王陛下の兄弟仲が良いことは有名だ。
王子殿下三人と過ごすよりアリリオさまの父親である元帥と過ごしている。
義父とのお茶の席で王がひょっこり顔を出してくるのはいつものことだ。
気楽にしろと言われているので、身分は適度に無視して話をするが、雑談ついでにされる提案や頼まれ事は厄介すぎる。
良い性格してると言いたくなるが、雰囲気のやわらかさから話しやすい人だ。
養父もアリリオさまを温和にしたような方で話しやすいが、考えを改めなければならない。
アリリオさまが冷たく威圧的であるのは事実だが、俺がそういう部分ばかり受け取っていたせいでもある。
優しさを信じるより、厳しさに耐えるほうが楽だったからだ。
「親子水入らずで、と言えば、陛下も参加してこない……とも言い切れませんが、まあ、適当に何とかします」
アリリオさまが眉をひそめる。国王陛下への不敬を叱るべきか、三人での夕食を喜ぶべきか、考えているのかもしれない。
誰にでも媚びへつらわれている天上人は、寛容である。
雑にあつかわれるのが嬉しい変態だ。
陛下のことは綺麗なお兄さんが家に出入りしていると本棚の上から見ていた。
静かに本を読んでいたら、姉たちに運動不足になると外に引っ張り出されて散々な目に合うので、本棚の中で本を読んでいた。
本棚にはいろんな術式が組み込まれているので、壊れないし、気づかれない。
俺が入るために本をごっそり床に置いていたので、綺麗なお兄さんにはバレてしまった。
子供らしい初歩的なミスだ。
国王陛下だと思わなかったので、読書仲間のつもりで話していて、アリリオさまと婚約の話になって相手の立場を知り、驚いた。
一族以外で、エビータの本を気軽に読みに来れる人間が居るはずないと幼い俺は知らなかった。
王が護衛もつけず、気軽に家に来るなんて気づくのは無理だ。
「陛下は貴様のことを気に入っているだろ」
以前なら、玩具にされているんだという言葉を飲み込んで「アリリオさまの伴侶だからこそ、目をかけていただいて有り難いことです」とそれっぽいことを返していた。
アリリオさまが言わんとすることを勘違いしていたのだ。
ずっと「貴様ごときが、なぜ」という意味合いだと思っていた。
今は、ぐわっと心拍数が上がる。
三人の子持ちとはいえ、国王陛下の見た目は若い。
王太子と言っても、第一王子に王位を継がせずに統治し続けるかもしれない。
王も王弟である義父も後妻を迎えても問題ない年齢と容姿をしている。俺より若くても彼らに嫁ぎたい女性は多いだろう。
人妻でも恋に落ちるので陛下の姿は見せたくないと言われている、そんな人だ。
俺が義父と会うことを面白くなさそうな顔をするのは、自分も父親に会いたいという意味合いかと思っていたが、違う。
アリリオさまは、王にも自分の父親にも嫉妬している。
そんな可能性、思いつきもしなかった。
俺を人質にとるようにして、アリリオさまを西へ東へ、北へ南へ、あちらこちらに派遣し続ける鬼畜な二人なので、好感度は俺のほうが高いに決まっている。
俺が嫉妬されて冷たい態度を取られているわけではない。
逆だったわけだ。
「アリリオさま、すき」
抱きついて伝えると「朝食はなしにするか」と言われた。
エッチなお誘いに笑っていたらアリリオさまは不機嫌になった。
まさか、今度は冗談ではなく本気だったのだろうか。
食事をおろそかにしてまで、セックスをしたがるということは、アリリオさまは相当、俺にハマっている。自分を褒めてあげたい。
目覚める直前に見た、見た夢の内容をアリリオさまは聞かない。
だからといって、目をそらしてはいられない。
あの声の主が死霊使い だと言うのなら、エビータが殺された理由は俺にある。
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