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第9話

 頭がぼーっとして、俺は彩人さんの顔を力なく見返した。目が合うと、くすりとほほ笑まれる。愛おしげな笑みに、体がくすぐったくなった。  彩人さんの手が伸びてきて、俺の腰をつかむ。ベルトを外す動きは少しだけ性急で、彼の性格に似合わず、余裕のなさを感じさせるものだった。 「あ、そ、そこは……!」  俺はハッと気付いて、手で抑える。しかし、少しだけ彩人さんの方が動きが早くて、ズボンをずり下げられてしまった。  先程から下半身が重くなっている。下着を押し上げて反応しているそれが視界に入って、俺は恥ずかしさのあまり埋まりたくなった。ぬめつく感触がする。先走りだけでなく、孔からもトロトロと蜜があふれ出して、パンツがぐっしょりと重くなっている。  臭いは大丈夫か、と蕩けかけた脳で不安に思ったのも束の間、最後の防波堤もあっさりと脱がされてしまう。  彩人さんのほっそりとしているけど節くれだって、男らしい指が、俺の分身に触れる。電流のような快楽が突き抜けた。 「あ……♡」 「ここ、こんなにトロトロになって、甘い匂いがして……すごく美味しそだね」  うっとりとした様子で彩人さんが顔を近づけてくる。  ぱくりと先端をくわえられてしまった。 「あ、彩人さん……! や、やめ……ひぅ♡」  鼻にかかった嬌声があがる。自分の声も、こんな行為も、恥ずかしくてたまらない。それなのに腰がびくびくと跳ねて、快楽を拾ってしまう。 「あ……、だ、だめ……♡」  じゅ、じゅ、と音を立てて吸われて、官能も感度もどんどん高まっていく。 「んっ、ああっ……♡」  クる、クる、何かがクる!  ぱっと頭の中で白い火花が破裂した。腹の奥から下半身全体に、きゅうう、と突き抜ける感覚。  俺は呆気なく達してしまった。 「はぁ、はぁ……」  短くくり返す呼気にも甘い響きが乗っている。  あ、すごい……♡ 自分でシていた時と、全然ちがう……。  気持ちが収まるどころか、更に高ぶっていく。きゅんきゅんとして、切なくうずいている。    彩人さんは口で受け止めたものをごくりと飲み干している。陶然と余韻にひたる俺は、それで我に返った。 「何で飲んで……! そんな不味いもの……!」 「こっちは汗や唾液よりも濃厚だね。生クリームみたいに甘くて、美味しいよ」  俺は頬をカッと染めて、顔を背けた。 「美味しくなんかない……」 「言ったでしょ? 俺、甘党だから。ルイくんの匂いの味も大好きだよ」 「そんな……だって」  すがるようにシーツをぎゅっと握る。  俺は泣きたくなるほどの気持ちに襲われて、下を向いた。 「彩人さんが甘党だったなんて、俺、初耳だし……」  俺はずっと疑問に思っていたことを、とうとう口にしてしまった。  そう、幼い頃から付き合いがあるからこそ知っている。彩人さんがそんなに甘い物好きだったなんて、聞いたことがない。  俺が言うと、彩人さんは穏やかに笑った。 「そうだね。俺も甘い物が好きになったのはここ数年のことだから」 「そうなんですか……?」 「ルイくんは経験ない? 何かを好きになると、そればっかり欲しくなっちゃうことって」 「え……? はあ……確かにそういうことも、ありますね」  俺は曖昧に頷いた。  確かに特定の食べ物にはまって、そればっかりを食べたくなる、なんてこともある。母さんなんて一時期、コンビニのスイーツにはまって、毎日のようにそれを買ってきていた。  彩人さんがはまるほどの甘いお菓子って、どんなんだろ……?  考えに浸っていた俺は、不意に体を貫いた感覚に身もだえた。 「ひぅ……♡」  あ、彩人さんの指が……俺の後孔をさぐっている。さっきから、俺の尻はぬめぬめと濡れている。孔から蜜のように濃厚な液があふれてきている。辺りには濃すぎるほどの甘い匂いが充満していた。 「ルイくん、こっちも美味しそう」 「あ、彩人さ……っ」  ぐっしょりと濡れぼそったそこは、あっさりと指を呑みこんでしまった。 「う、……あっ♡」  頭の中がちかちかとする。内壁に沿うように、くりっと指を曲げられて、そこがいいところを押しつぶした。快楽の波に俺は喘いで身悶えるばかりだ。 「あ、あ……♡ そ、そこ……♡」 「ルイくん、涎垂れてる。もったいないから、舐めていい?」 「え、ちょ……」  次の瞬間、口を重ねられている。  じんわりと気持ちのよさが染み渡る。キスは嫌いじゃない。けれど、さっき彩人さんは俺のあれをくわえていたわけで、しかも、出した物を飲んでしまったわけで。心情的には身構えてしまった。  しかし、不思議と嫌な味はしない。自分の精液の味なんて、嫌悪感を覚えそうなものなのに。  それどころか、 「ね? 甘いでしょ」 「う、けほ……これは」  確かに、甘い。  口の中に糖分をたっぷりとつめこんだような甘さだ。ひどい味だと天音に言われたから、もっと堪えがたいほどのものかと思っていたけれど。甘い。ひたすらに甘いそれは喉に絡みつくほどに濃厚だ。甘い物が苦手な人にとってはきついかもしれないけど、俺自身はそこまでひどい味だとは思わなかった。  もしかして、さっきから彩人さんが言っていることは気休めでもなんでもなくて……。  本当に「美味しい」って思ってくれているんだろうか? 「んっ……はぁ……あっ……♡」  舌を絡められて、その下ではぐちゅぐちゅと孔を引っ掻き回されて、俺の思考は飛んだ。  孔から指を引き抜かれると、ねっとりとした蜜が糸を引いて垂れる。その指まで彩人さんが舐めはじめたので、俺は羞恥心で沸騰しそうだ。 「そ、そんなとこまで舐めないでください……!」 「ごめん。ルイくんの体、どこもかしこも甘いから」  彩人さんは困ったように苦笑する。頬にえくぼができていて、俺の胸がきゅんと鳴った。

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