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第5話
「夏希くん、ご飯たべる?」
コンコン、と小さなノックの音が聞こえて、新木の声が聞こえる。
扉を開けるとエプロンをした新木がにこっと笑顔を作った。
「簡単な物だけど、作ったから食べてくれる?」
新木に続いてリビングへと向かうと、間接照明から普通の照明に変わっており、薄暗かったリビングがよく見えた。
L字の黒いソファーに、四人がけのダイニングテーブル。この二つを置いても、まだまだ走れるスペースがある広いリビング。
「さあ、座って」
ダイニングテーブルには、白いご飯と豚汁、卵焼きと魚が置かれていた。
「ごめんね、あんまり料理は得意じゃないんだ」
沈黙を、ダメな方に受け取ったのか、新木がハハ、と空笑いでそう言った。
「違う違う!美味しそうだなって思って……」
美形で金持ちで、料理もできるなんて。欠点はないのだろうな。
椅子に腰掛けると、新木もすぐ目の前、対面に腰掛けた。
「いただきます」
手を合わせていうと、新木から、どうぞと声がかかる。
フー、と少し冷ましてから豚汁に口を付けると、だしの味と甘い味が口に広がった。
「甘い……」
これ、食べたことある、と返事をする前に、新木がよかった、と声を出した。
「さつまいもを入れてるんだ、甘くて美味しいでしょ」
「あ……そうなんだ」
確かに食べたことのある味だった。誰が作ってくれたのかも、誰と食べたのかもわからないが、今日のこの豚汁は新木が作った。
手料理を作りあって、食べあう仲だったんじゃんか。やっぱり。
そう思うと、すこしだけ照れ臭くなる。まるで、そうであって欲しい、みたいな言い方。
「美味しいよ」
思ったよりも小さな声になったが、感想をいうと新木はふわりと笑顔を浮かべた。
「よかった、気に入ってもらえて」
幸せそうに笑う新木に、過去の自分に問いたくなる。自分と新木がどういう関係だったのか、過去を思い出すときに幸せそうに笑うこの人を、自分は幸せにしてやれてたのか。なんて。そんなこと聞いてどうするんだ。
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