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始まり
祐は一個上の幼なじみだ。
今はこの家から徒歩10分圏内の大学で大学院生をしている。
小学生の頃からなんだかんだでずっと一緒の
所謂腐れ縁というやつだ。
「.......それ食べたら手伝ってやるから終わったらさっさと帰れよ」
「ありがとう!!!!!」
「お前ももう来年から社会人なんだからレポートくらい書けないとマズいだろ.......」
とか言いつつ祐はいつも俺を甘やかしてくれる。
「だって俺には祐がいるし.......」
「いつまで言ってんだ、それ」
少し笑みを浮かべた祐の長いまつ毛の影がゆらゆらと揺れるのに比例して、自分の心まで揺れてしまうようで慌てて視線を逸らした。
小学校の作文や中学校の卒業文集その他諸々.......。
今まで配られたあの400字の作文用紙の一体何枚分祐に助けられてきたのかしれない。
祐は昔から人見知りで引っ込み思案。そのせいで小学生の頃から友達も少なく、いつも本を読んでいた。
俺は比較的人付き合いも得意で、その頃から友達も少なくないけど、校庭で遊ぶドッチボールや鬼ごっこよりも、家が近い祐の家に行って、祐が本を読んでいる横でひたすらその日の出来事を話すことが好きだった。
(今考えると自己中なガキだな.....と思う.......。)
ふと本が積み上がった祐の机に目をやると見覚えのある1冊を見つけた。
「祐.......その本.......!」
「ああ.......これ、この前実家帰った時に見つけて懐かしくなって持ってきた」
「まだ持ってたんだ.......超懐かしい......」
若干の年季が入った1冊の小説。
物語の内容は確か、主人公の男の子の友情がどうとか、恋愛がどうとか、まあそんな感じだ。(覚えてない)
その年の推薦図書か何かに指定されていたその小説は俺たち.......と言っていいのかは分からないが、少なくとも俺にとっては大切で特別な1冊なのだ。
例によって俺は幼少期から自分の言葉を文章に起こすことが人一倍できない。
小3の夏休み、初めて出された読書感想文という宿題に俺は白目を向いていた。
後回しにしていたらいつの間にか始業式まであと3日。親に怒られ泣きながら作文用紙を持って祐の家へ駆け込んだ。
祐とは近所で時々お互いの家で遊ぶくらいの仲だったが、その時の俺はまだ同じクラスの友達と遊ぶことの方が多かった。
でもこの時、いつも本を読んでいる祐ならきっと助けてくれる.......と直感で思い、祐の元へ向かった。
「祐くん!!!読書感想文が、がげな"い"だずげで」
「はや.......まだ終わってなかったの.......?なにか本は読んだ?」
「よんでな"い"」
「はぁ.......」
「じゃあとりあえずこれ読んで。読み終わったら思ったこと言ってみて。おれがそれをまとめて書いてあげるから。」
「わ"がっだ」
溜息をつきながら祐が渡してくれたその本を読み始めたあの日から、なんとなく2人でいることが増えた。
この本はロマンチックに言うと、2人の"始まりの本"なわけだ。
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