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第6話

 『ブランカ』のお昼時。  ユティスはいつものようにレオンハルトに外へと呼び出され、店の裏手まで来ていた。恋人に強引にキスをされ、散々、からかわれて、足腰が立たなくなってしまうそんな日常。  しかし――その日のユティスはちがっていた。 「待って」  レオンハルトが顔を近づけてくると、少年は手でそれを阻止した。  毅然とした双眸で騎士を見返す。 「それはもう、やめてほしい」 「……は?」  すると、レオンハルトは明らかに気分を害したようで、目を細める。凄みのある目付きで睨みつけられ、少年の心臓は震えた。しかし、ここで負けてはいけない。本当は怖いけど――今にも泣き出したくなるくらいに怖いけど。姉の言葉を信じて、実行するしかない。  ユティスは表情を緩める。眉を垂らして、たよりなげな表情を浮かべた。 「だって……レオンにキスされると、俺……変になっちゃうから……」  ぽっと白い頬を染めながら、少年は目を伏せる。 「午後のお仕事だって、いつも全然、身が入らなくなっちゃうんだよ……? だからもうここでは……この場所ではやめよう……?」  ちらちらと恋人の方を気にしながら、目線を上げる。まるで子犬が飼い主にお伺いを立てるような動作だった。もともと見た目の整った少年がやると、それは破壊的なまでの愛らしさだった。  すると、レオンハルトは戸惑ったような様子を見せる。 「いきなりどうした……いつもと雰囲気ちがうぞ、お前……」 「俺のことを変にしたのは、レオンの方でしょう……?」  熱い吐息を吐きながら、少年はうっとりと呟く。  大きな碧眼が濡れたように潤んでいる。その双眸で見つめられれば、男ならば誰でも勘違いをしてしまうことだろう。「こいつ、俺のことが好きで好きで仕方ないにちがいない!」と。  ちなみに――これは計算ではない。ユティスとしては怒っているレオンハルトが怖いので、自然と出てきた涙だった。台詞だけ姉に仕込まれた物である。  そこでユティスは視線を逸らした。もじもじと身を揺らしながら告げる。 「ねえ……今日の夜も、レオンのところに行ってもいいかな……」  それを口にするのも恥ずかしくてたまらないのだろう。最後の方は消えてしまいそうなほどに小さな声だった。  レオンハルトは訝しげに眉をひそめる。それからぶっきらぼうな口調で言い放った。 「……来たいんなら、来い」  その言葉に、少年はぱっと笑顔を浮かべた。嬉しくてたまらない。そんな表情だ。 「うん。夜……早く、会いたいね」  そう言って少年は――うっそりとほほ笑むのだった。

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