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第7話

 その日の夜。  恋人のベッドの上で、ユティスは緊張に胸を高鳴らせていた。レオンハルトは今、シャワーを浴びている最中だ。あがったらすぐにでも、事を始めてこようとするだろう。そこで仕かける。  とはいえ、こんなはしたない行為をするのは、初めてのことだった。考えただけでも赤面してしまう。どうしよう、やめておこうかな、と逡巡を続ける少年の脳裏に。  レティの言葉が木霊する。 『バカね。そいつの言いなりになっていても、そのうち飽きられて捨てられるだけよ――』  そのうち捨てられる。捨てられる。捨てられる――。 (レオンに捨てられたら、俺、死んじゃうかも……)  だから、やるしかないのだ。  これは自分の生死をかけた戦い(?)なのだから。  ユティスは決意し、拳を握る。  その時だった。部屋の扉が開く。 「おい、ユティ。俺のシャツがねえん、だが……」  言葉は途中で途切れる。  そして、騎士はそのまま立ち尽くした。 「……あ!」  ユティスは「気付かれた!」とばかりに背中を震わせる。そして、慌てて振り返った。 「あの、あのね……これは、その……」  ユティスが着ているのはレオンハルトのシャツである。それ以外は何もまとっていない。ズボンはもちろん下着さえも。少年の白すぎる太ももが露出していた。もう少しで大事なところが見えそうというギリギリのラインで、裾が下半身を覆い隠している。  レオンハルトとは体格がちがいすぎるので、シャツはサイズが合っていない。袖のところはぶかぶかで少年の手を隠してしまっている。余った袖で口元を隠しながら、ユティスは首を傾げた。 「何だか……レオンの匂いがして、落ち着くというか……」  そんな台詞を言いながら、ユティスは恥ずかしさのあまり卒倒しそうになっていた。 (姉さん、これはハードル高すぎだよー! 恥ずかしすぎる……)  耳まで赤くなっているのがわかる。その上、何もまとっていない脚が冷える気がして、ユティスはもぞもぞと下半身を揺らした。羞恥心で涙まで出てきた。双眸をうるうると潤ませながら、ユティスは自分の恋人を見上げる。  レオンハルトは硬直していた。こちらは上半身だけ裸である。よく引き締められた体をしている。 (ああ、ほら、レオン呆然としちゃってるよ? 本当にこんなので大丈夫なの……?)  途中で不安になって、ユティスは俯いた。その仕草も「もう恥ずかしさが限界、あんまり見ないで」といったいじらしさにあふれたものだった。  レオンハルトが無言で歩み寄ってきて、ベッドに乗り上げる。そして、乱暴に少年を押し倒した。 「あっ……」  性急な動作で太ももを撫で上げられる。その感触にユティスは甘い声を出した。レオンハルトが顔を近づけてくる。少年は受け入れるように目をつぶった。  唇が重なる直前。  がんがんがん!  突然、大きな音が聞こえてきた。  扉を叩く音だ。ユティスはハッとして、顔をそちらに向ける。 「……誰か来たみたい……」 「ほっときゃいいだろ」  不機嫌に言い捨てて、レオンハルトは少年の肌をまさぐっている。シャツの中に侵入した手が胸元に触れる。  その時だった。よく通る声が玄関から響いてくる。 「ユティスー! いるの?」 「あ」  その声にユティスは反応した。 「あの、レオン……俺の、姉さん」 「何だと……?」  レオンハルトは顔をしかめる。逡巡したように視線を散らす。そして、舌打ちをして、起き上がった。  それから2人は急いで身なりを整えた。玄関で来訪者を迎える。  レティは眼鏡をかけて、いかにも大人しそうな女性といった佇まいをしていた。 「夜分遅くにすみません。私、ユティスの姉のレティと申します。うちの弟がこちらにお伺いしているのではないかと思ったのですが……」  そこでユティスの姿に気付く。 「もう、ユティスったら。ここにいたのね。今日は話したいことがあるから家にいてくれってお願いしたでしょう」  姉の言葉に、ユティスは今気付きましたとばかりに手を叩く。 「ごめん、姉さん。そうだったね」 「そうよ。じゃあ、帰るわよ」 「でも……」 「何? 何か用事でもあるの?」 「う、ううん」  ユティスはふるふると首を振り、レオンハルトに向き直る。 「ごめん。レオン。今日は帰るね」 「は……!?」  レオンハルトは愕然とする。  それに気付いていないかのように少年は帰る準備をする。 「それじゃあ、またね」 「こんな遅くまで弟がお邪魔してすみません」  呆然と立ち尽くしている騎士を残し、姉弟はその場をさっさと去るのだった。

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