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第9話

 次の日。  『ブランカ』を訪れたレオンハルトは、なぜか目の下にクマを作っていた。その上、しかめ面で黙りこんでいる。 (何か、すっごく機嫌が悪そう……!)  ユティスは内心で汗をだらだらと流した。  いつもだったら、全力でレオンハルトのところにすっ飛んで行って、ご機嫌取りをしてしまうところだが、レティからは「構うな」との指示を受けている。  ユティスは素知らぬ顔を装って給仕をする。  レオンハルトは黙りこんだままで、ユティスに話しかけてくることもない。帰り際になって、ようやく少年の顔を見た。そして、テーブルを叩く。「外に出ろ」の合図だ。それはいつもより性急で乱暴な動作だった。  ばん、と顔の横に手をつかれ、逃げ道を塞がれる。いつも逢瀬を重ねている店の裏手で、2人は顔を合わせていた。レオンハルトは怒り心頭といった様子で、少年を見下ろしている。  それだけでもう、ユティスは泣きそうだった。 「昨日はよくも勝手に帰りやがって……」 「……ごめんね、レオン」  ユティスはうつむいて、小さな声でつぶやく。  そして、口元を抑えながら、レオンハルトを見上げた。 「俺も、本当は帰りたくなかった……!」  その表情を見て、レオンハルトはハッと息を呑む。  少年の双眸がうるうると潤んでいたからだ。しかも、真っ白な頬は紅をさしたように染まっている。  恥ずかしそうに目を伏せながら、少年は続けた。 「おかげで……レオンのことを思い出すと、体が熱くなっちゃって……昨日は全然、寝れなくて……」  ごめん、とユティスは内心で謝った。  嘘です。昨日は寝てました。一晩中、ぐっすりと寝てました。  しかし、そんなことはおくびにも出さずに、ユティスは上目づかいでレオンハルトを見つめる。うるうるの瞳で。すると、騎士は慌てたように、バッと顔を逸らした。 「そ……そうかよ」  そっぽを向いてしまった騎士に、少年はささやくように告げる。 「その、レオン……今日の夜も、行ってもいいかな……」  最後の方は恥ずかしさのあまり、尻すぼみになってしまう。  数秒の沈黙が流れ、 「……絶対、来い」  レオンハルトは唸るように、そう告げるのだった。

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