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第10話

 街全体が寝静まった、その日の夜。 「その……」  ユティスは寝室で、顔を赤くしていた。ハニーブロンドの甘い髪はわずかに湿っていて、シャワーを浴びた直後であることを窺わせる。  少年は、大きめの寝巻をたぐり寄せた。 「いいの、かな……」  照明を受けて、キラキラと輝く碧眼。その双眸は、所在なさげに伏せられている。不安でたまらないといった様相だ。動作も表情もいじらしい。男に興味を持たない同性さえも惑わしてしまいそうな雰囲気だ。ましてや、元より彼のことを性的な目で見られる人間なら、一も二もなく襲いかかってしまうことだろう。  だが。 「――姉さん」  今、少年の目の前にいるのは恋人の騎士ではなく、自分の姉だった。  レティはソファにもたれかかりながら、ひらひらと手を振る。 「いいのよ。楽にくつろぎなさい。旦那がたっぷりと旅費を持たしてくれたから、こんな豪華なホテルもとれたのよ。部屋も2つあるから、あんたはそっちで寝ていいわ」  レティの言う通り、そこは街一番の高級ホテルだった。  ユティスが今まで見たこともないような豪華な部屋だ。革張りのソファに、大きなサイズのベッド。敷いてあるカーペットから壁かけにいたるまで、高級感にあふれている。  レティに示されたゲストルームも豪奢な装丁をしていた。わあ、今日はここで寝ていいんだ。すごく素敵……と顔を輝かせてから、ユティスはふるふると首を振った。 「……じゃなくて! 俺、今日、レオンに絶対行くって約束したんだよ?」 「ああ。あのヤりたがりの発情犬ね。放っておけば?」  あんまりの言いようにユティスはあんぐりと口を開ける。 「いや、でも……約束を破るのって、よくないんじゃ……」 「ユティス。世の中にはこういう言葉があるわ。『男は焦らせるだけ焦らせ』」 「聞いたこともないけど……」 「じゃ、今、覚えなさい。男はね、狙っていた獲物に逃げられるほどそれを追いかけたくなる。そういうものなの」  レティは自信たっぷりにそう言う。  だが、ユティスはすっかり顔を青くしていた。きっと、レオンハルトは怒る。ものすごく怒っている。その様子を想像するだけで、胃が縮こまってしまう。 「……明日、レオンに何て言い訳したらいいのか……」 「そこらへんはね、適当にそれらしい嘘を言っておけばいいのよ。『父親の職場の隣家の奥さんが危篤状態で、行けなかった』とか」 「それ、赤の他人だよね!?」  少年は不安に思いながらも、ふかふかのベッドを堪能し――  その日は結局、ぐっすりと寝入ってしまうのだった。

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