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第11話

 その翌日。  『ブランカ』を訪れたレオンハルトは、なぜか少しやつれているように見えた。頭痛でもするのか、頭を抱えている。 (むしろ、具合悪そう!?)  ユティスはやっぱり内心で汗をだらだらと流した。  いつもだったら、レオンハルトがちょっとでも体調を損ねているようであれば、何でもしてあげなくてはと思ってしまう。仕事を抜け出して、薬屋に駆けこむくらいのことはするかもしれない。だが、やはりレティからは「構わんでよろしい」と指示を受けている。  そのため、今日もユティスは素知らぬ顔で給仕に専念――しようとして、できなかった。  店に入るなり、レオンハルトはユティスの手首をつかんだ。 「おい……外に出ろ」  そして、睨みを利かせながら、ドスの利いた声を出すのだった。 「何で来なかった」  店の裏手に移動すると、真っ先に問いただされる。  ユティスはその言葉に固まった。 (ああ! 言い訳を考えるの忘れてた!)  高級ホテルのベッドがふかふかすぎて、気持ちよかったので、すっかり忘れていたのだった。 「えっと、その……」  ユティスは必死に頭を回転させる。そして、思いついた台詞を言い放った。 「ごめん! 父親の職場の隣家の奥さんの妹が危篤状態で、行けなかった!」 「赤の他人じゃねえか!?」  愕然となるレオンハルト。少しだけよろけて、頭を抑える。 「っつーことは、あれか? 俺と過ごすより、そんな赤の他人の方が大事だと……?」 「それは、その……」  何と言ったらいいのかわからず、ユティスは俯く。  束の間の沈黙が流れる。  不意に、レオンハルトが頬に手を添えてきた。顔を上げさせられ、接近する唇。しかし、触れる寸前でユティスはそれを阻止した。 「待って、それはこないだ、もうやめてって言ったよね……?」  レオンハルトの目が険しく細められる。  怒っている。ものすごく怒っている。しかし、ユティスは引かずにその双眸を見返した。  そして――睨み合いの末に、逸らされたのは黒い瞳の方だった。 「……くそっ」  レオンハルトは悪態を吐きながら、そっぽを向く。  その隙にユティスは後ずさる。 「俺、そろそろ店に戻らないと……」  背を向けた瞬間。  少年の手首をすがるように騎士の手が捕まえた。 「今日の夜」  レオンハルトはユティスの顔を見ないまま、呟く。 「――お前の家に行く」

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