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第15話
爽やかな日差しが街並みを照らし出している。
アルベール大通りの朝は早い。各店では早朝から開店準備のために、人が駆けまわっている。
それは喫茶店『ブランカ』も例外ではなかった。
「マスター! おはようございます!」
「ああ」
マスターが店に入って来ると、少年は笑顔で告げる。それは朝の陽ざしに負けないくらいに輝く笑顔だった。
それを見て、マスターがふっと笑みを零す。彼がそんな表情を浮かべるなんて初めてのことだった。
ユティスは目を丸くする。すると、マスターは低い声で言った。
「……うまくいって、よかったな」
「え……?」
いったい何のことだろう。ユティスが首を傾げていると、扉が開かれる。
1人の女性が店へと入って来た。
「ユティス、お別れを言いに来たわ。あたし、そろそろ旦那の元に戻らないと」
レティはあっけらかんと告げる。その言葉にユティスは唖然とした。
「ええ、姉さん、もう行っちゃうの?」
「またいつでも会いに来るわよ」
ニッと笑顔を浮かべるレティは。
おとなしそうな感じでも、妖艶な感じともちがっていて。
まるで子供のような明るさを湛えていた。きっとこの姉には、自分の知らない様々な顔があるのかもしれない。ユティスはそう思った。
レティはそのまま店を出て行こうとするが、そこで思い留まる。
カウンターの方を振り返り、ウインクを送った。
「マスター。うちの弟に困ったことが起きたら、また知らせて頂戴ね」
マスターは声をかけられても無表情のままだ。だが、わずかに顔を上げて、レティと視線を交わした。
「え? ……え?」
ユティスは戸惑いながら、2人を見比べる。
(姉さん……もしかして、始めから知ってた……?)
ユティスが悩んでいるのを知っていて。
そのために、わざわざアルベールまで足を伸ばしてくれたのだろうか。
そして、姉にそのことを知らせてくれたのは。
ユティスはカウンターの向こう側を見やる。
『ブランカ』の主人はいつも通りの寡黙さで、淡々とグラスを磨いているのだった。
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