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初耳8
食堂のメニューの注文の仕方を教えてもらい、香ばしい匂いに誘われて生姜焼き定食を注文した。飲み物は好きな物を自由に注いで飲めるようで、紹介されて、緊張からかのどが渇いていたので、大きめのグラスにウーロン茶をなみなみ注いだ。
向かい合わせに春は座って同じ生姜焼き定食をテーブルに置いた。
「響君って綺麗だよね」
「はぁ?」
不意に言われて箸で挟んでいた生姜焼きを危うく落とすところだった。
「なんていうか美人だよね」
「男にそんなこと言われても同意できないっての」
それに初対面で突然言われる内容でもない。
「言われない?」
「言わるけど、嬉しくない」
そう。俺は母親似なのだ。鍛えても筋肉は付き難くて色も白い。色素の薄い髪とそれと同じように茶色がかった瞳。冷たい印象を持たれる事も多い。
父親もごつごつしい感じは無く、優男的な印象だ。だから俺がこんなでも仕方ないのかもしれないが、俺的にはもっと逞しくなりたいと常々思っているのだ。
「ごめん」
謝った春は項垂れて子犬の様で思わずその頭を撫でてしまった。
春はにっこり笑うと、「でもここ男子校だから響君みたいに美人だと気をつけたほうがいいよ」と小声で言った。
いや、俺よりお前の方が十分危ないだろうとは思ったが、この学校で生活しているのだから身を持って分かっているだろうとあえて何も言わなかった。
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