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難題3
細身で長身、真っ黒な短髪で、神経質そうな銀縁の眼鏡が一層厳しさを称えている。
「末永君も2年生だから。クラスは違うけど」
「そうなんだ。よろしく」
挨拶をしている間に桃香先輩は自室にカバンを取りに行っていたようだ。
全員が揃うとなぜか俺をじっと見ている。
「何か?」
「ネクタイ結べないのか?」
そう、4人の視線は俺の首に集まっている。さすがは風紀。制服の着こなしには目ざとい様だ。
「ああ……結んだこと無くて、春に教えてもらおうかと思って……えっわっちょっと」
突然のことに驚いて暴れそうになる俺を相良先輩は「じっとしてろ」と笑いながら制した。
後ろからまるで抱きつくようにしてネクタイを結んでくれているのは桃香先輩。
身長は桃香先輩の方が高い。肩から前を覗き込むようにされてネクタイを器用に結ぶ。
さらさらとした艶のある黒髪が頬をくすぐって、シャンプーの香りだろうか、ほのかな香りにドキッとした。
「社会人になって必要なことだからな、今のうちからしっかり覚えろよ」
相良先輩は「梓2号」と笑った。
「梓先輩も結べないんだよ」
春も笑って、「毎朝そうやって結んでたよ」と言った。
また出た梓先輩という言葉と、同じように結ばれていたということにショックを覚えた。
ふっと背中から桃香先輩が離れる。背中に感じた体温が離れる。
「ありがとうございます」
ドキドキする胸を押えて見下ろした首にはしっかりと綺麗に結ばれたネクタイ。
「早く覚えろよ」
相良先輩はそう言うと、「出るぞ」と全員を促して部屋を出た。
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