25 / 121

自覚と嫉妬

『んっ……やだって』  声が聞こえてドキッとした。  誰かがここにいる。色気を含んだその声に覗いたことを後悔した。  誰かの情事なんて、友達から押し付けられたAVでしか見たことが無い。好奇心に駆られて、背伸びをしたが、小さな窓からは奥の方は見えなくて、『嫌だって言っているだろう』と拒んでいる声が聞こえるだけだ。  その声は明らかに男の声で、幼さを残した青年の声だ。  ここは男子校で、先生にも若い女性はいない。たぶん、生徒同士だ。  嫌がって抗っている。だけど、大声や罵声は聞こえないから、強要しているわけではないだろう。  寮は1人部屋で、部屋を行き来することは許されているけど、もしも恋人同士なら、ほかの生徒が部屋の前や廊下にいたり、尋ねて来たらと思うと落ち着かないだろう。  だから、誰もいない休日の特別教室は場所としてはうってつけだ。  扉を隔てたくぐもった声が、かすかに聞こえる。  確かにここは男子校で、さっき叔父さんに気を付けるように言われたけど、想像と現実ではこんなにも違う。  日常の中の非日常ってだけで、こんなにもいやらしさが増す。  桃香先輩も持てるって言ってたけど、こういうことがあるのだろうか。  誰かに優しく声をかけたり、口づけをしたり。  あのハスキーな掠れた声を聞かせたりするんだろうか。  そう思うだけで胸が熱くなる。耳に届く声に、想像は掻き立てられて、うずく。  桃香先輩が誰かを好きになったり、抱いたりするんだろう。

ともだちにシェアしよう!