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自覚と嫉妬
『んっ……やだって』
声が聞こえてドキッとした。
誰かがここにいる。色気を含んだその声に覗いたことを後悔した。
誰かの情事なんて、友達から押し付けられたAVでしか見たことが無い。好奇心に駆られて、背伸びをしたが、小さな窓からは奥の方は見えなくて、『嫌だって言っているだろう』と拒んでいる声が聞こえるだけだ。
その声は明らかに男の声で、幼さを残した青年の声だ。
ここは男子校で、先生にも若い女性はいない。たぶん、生徒同士だ。
嫌がって抗っている。だけど、大声や罵声は聞こえないから、強要しているわけではないだろう。
寮は1人部屋で、部屋を行き来することは許されているけど、もしも恋人同士なら、ほかの生徒が部屋の前や廊下にいたり、尋ねて来たらと思うと落ち着かないだろう。
だから、誰もいない休日の特別教室は場所としてはうってつけだ。
扉を隔てたくぐもった声が、かすかに聞こえる。
確かにここは男子校で、さっき叔父さんに気を付けるように言われたけど、想像と現実ではこんなにも違う。
日常の中の非日常ってだけで、こんなにもいやらしさが増す。
桃香先輩も持てるって言ってたけど、こういうことがあるのだろうか。
誰かに優しく声をかけたり、口づけをしたり。
あのハスキーな掠れた声を聞かせたりするんだろうか。
そう思うだけで胸が熱くなる。耳に届く声に、想像は掻き立てられて、うずく。
桃香先輩が誰かを好きになったり、抱いたりするんだろう。
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