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自覚と嫉妬

 この人が梓先輩。やっと会えた人物に驚きを隠せない。それに、急に現れたことで動揺していた。それに、さっき情事の声を聞いてしまったから。 「うん。桃香梓。比嘉響君だよね?」 自分の名前を名乗っていないことに気が付いて、慌てて自己紹介した。 「へぇ~。噂でしか聞いてなかったから会いたかったんだよね~」 いや、俺も噂でしかあなたを知りませんでしたけど。 世話焼きで優しくって、桃香先輩の通訳。 こんなに……色気のある人とは思ってなかった。 赤い髪に白い肌。どことなく桃香先輩に似ていて、間の開いたしゃべり方に特徴があるけど、それが余計に色気を漂わせている。 いや、まあ、あんな格好で人気の無い教室から出てくるって事はそういうことをしていたんだろうけど、なんていうか……色気がある。 「俺の噂って?」 「ん? 美人って聞いてたから」  容姿についての噂は俺の耳にも届いている。 「ああ……それ、あんまり嬉しくないです」  噂ばっかりが先行して、物珍しさに教室にやってくる生徒も少なくない。編入生ってだけでも珍しがられているから、あまり嬉しい噂ではない。 「そう? 美人だよ。カズオミも言ってたし。和臣と同室だよね?」 俺と同室なのは桃香先輩……下の名前を呼ぶ人がいないからすぐに分からなかった。 従弟同士なら名前で呼び合っても不思議じゃない。だけど、余計に親しさを強調しているようで複雑な気持ちになった。 春も先輩たちも『桃香』と苗字でしか呼んでいなかったから、下の名前を意識したことが無かった。寮の部屋の入り口にあるプレートも名字しか書かれていない。 「何、和臣、比嘉君にも話ししないの?」

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